314 ザロメニア城塞の攻防 3
「イケー! 此処で敵を崩さねばナバロ軍が危ないぞ!」
盾王ビッグベンが奮闘する。
「此処は通さんぞ!」
ビッグベンの前に両手に剣を持つ虎族の大男が現れた。均整のとれたしなやかそうな身体を持つ副将ネビルドリアだ。
不敵な笑いを浮かべ両手の剣を振ると周りの兵士が血飛沫をあげて倒れていく。
ビッグベンが前に出てネビルドリアを睨みつける。
「お前を倒さねば進めぬようだな。俺が相手をしてやろう。俺の前にノコノコ出てきたことを不運と思うんだな」
ビッグベンが挑発する。
「フ! 早くこい!」
「いくぞー!」
「ガキーン!」「ガン、ガン!」
両手剣と盾がぶつかった。
ヘキサグラムは星6、王級冒険者と同レベルの強さと言って良い。
ビッグベンとネビルドリアの戦いが始まった。
一方ケインドラグマも苦戦を挽回するために自ら突出した。大きな金棒を振り回してキングナバロ軍に突っ込んで行った。そしてキングナバロに辿り着く。キングナバロはピートキャストの副官マイクボンドと交戦中だった。
「見つけたぞ。お前がこの軍の将だな! お前の首をいただいて名誉挽回を計らん!」
ケインドラグマが大金棒を振り回し荒らしのようにキングナバロに突っ込んでくる。
「させるか! うわー!」
キングナバロの兵がケインドラグマの突進を阻もうとするが大金棒に弾き飛ばされてケインの進行を止めることができない。
「ドリャー! ガキーン!」
ケインドラグマの一撃をキングナバロが受け止める。
ナバロとケインの一騎打ちが始まった。
ピートキャストは戦線全体を感じ取っていた。敵の強力な気配三人の内二人にこちらのエース級が接触し戦いを始めたことが分かる。
“もうそろそろ肩がつきそうだな。ケインドラグマの軍が必死に戦っているようだ。フフフフフ”
ピートキャストの笑い顔が急に真剣な表情に変わり東の空を睨んだ。
“何か来る……敵の援軍か?”
それはすぐに見えてきた。人間が飛んできていたのだ。
「魔法か? 飛行魔法というやつか?」
ピートキャストが思わず声を発した。強力な気配の正体は飛行する13人の人間だった。
「もう戦いが始まっているね。まだ城塞は落ちてなさそうだ」
飛びながらグラが言った。
「そうじゃな。城の西で派手にやっているようじゃ。どう見ても苦戦しているな」
「東の城壁を攻められていますね。精霊を召喚して足止めさせましょう」
キルはそう言うとケントギルガメス軍の後方に神級精霊四体を召喚して攻撃させた。
突然現れた四体の精霊に攻撃されてケントギルガメス軍は混乱し始める。
キル達は城の上空を抜けて西の戦場の真上に到着した。
サキ、クリス、ケーナ、マリカが上空から獣人の集団に向けて攻撃を開始した。サキとクリスがグラムヒューイット軍に爆烈魔法を打ち込み、ケーナとマリカがピートキャスト軍に数万のスキルの矢を打ち込んだ。戦場全体の状況が一変する。
地上で戦っていた獣人も人間も空を見上げていた。そこには晴れ渡る青空の中、突然現れた『15の光』が獣人軍に攻撃を行っていたのだった。
ケインドラグマもネビルドリアも例外ではなく戦いの手を緩めて上空を確認し、状況の変化に思考を巡らせた。
「なんだ、あれは」
ケインドラグマがそう呟いた時、流星のように自分に向かって来る一つの影が目に入る。
キラリと一瞬の閃光が走り振り返るとケインの左前に一人の男がしゃがんでいた。その男は大剣を握っている。視界がズルりと滑るように動いていく。“切られた……のか?”視界が霞み始めていた。
ケインドラグマの身体は左肩から袈裟に切られて滑り落ちた。
キルが立ち上がりながら向きを変え大剣を横に一閃すると光の剣撃が放たれ周囲の獣人達の胴が二つに切り離された。キルはマイクボンドの方に向き直るとまた一閃を撃ち放つ。獣人達が倒れ込みマイクボンドまでの道が開かれた。
驚き目を見張るマイクボンドがキルを見つめるとそこにはもうキルの姿はなかった。そして腹に熱いものを感じた時自分の右背後にそれはいた。
マイクボンドの身体が分断され倒れ込んだ。キングナバロは驚きその姿を凝視していた。
“味方なのか?そうに違いない“
キングナバロは一瞬でそう理解した。
”冒険者が応援に駆けつけたのか?助かった”
その少年の姿や装備は冒険者のそれである。キングナバロがキルに声をかけようとした時もうすでに彼は敵陣に切り込んでいた。
ネビルドリアは驚愕していた。配下の獣人達がバタバタと倒れながら自分の方に道ができて来るのが見える。もうその道が正面まできている。ネビルドリアは反射的に双剣を十時に組んで頭上からの剣戟を受け止めようとした。
それが見えた時には身体が左右に離れていくのが感じられた。そして意識が薄れていった。
十時に組んだ双剣が諸共に切り落とされていた。
盾王ビッグベンは目を見張った。今まで自分と互角以上に戦っていた獣人が一瞬のうちに斬り伏せられたのだ。何処の者かは知らないが、それを成したのは少年。それは明らかに人間。味方に違いない。
「君は味方なのか?」
ビッグベンがキルに声をかけた。キルはそれに答える。
「俺はキル。冒険者です。人族のために応援に来ました」
ビッグベンは数年前起きた大殺戮事件の事を思い出した。『キル』とは、ヤオカ流一門との決闘で200人もの剣士を斬り殺した冒険者達の一人の名だ。当時ロマリア最凶最悪の武闘派集団の襲撃をたった三人で返り討ちにしたと伝わっている。この強さは、そいつに間違いない。ビッグベンの背筋に冷や汗が流れる。
「助かったよ。あれは君の仲間かい?」
ビッグベンが上空で獣人軍に攻撃を加えているクリス達を指差した。
「そうです。俺たちは『15の光』。ロマリアではお尋ね者ですが、悪事は働いていませんよ。できれば俺達と手を組みませんか?」
キルは笑ってそう言った。
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