311 ヘプタグラムズ

獣人軍ピートキャストの陣に後続の獣人軍が合流していた。


ケインドラグマ将軍、彼もまたヘプタグラムで有る。

ヘプタグラムズはピートキャスト、ケインドラグマ、ケントギルガメス、グラムヒューイットの四人の将軍と王の両腕の二人だ。それぞれ1万の精兵を抱えていた。


ケインドラグマの軍一万が合流して続いてケントギルガメスの軍もすぐそこに迫っている。


「ピート、もう一戦したようだな。次の戦いは俺たちに譲れ!」

「フン! 先鋒は俺が承っている。お前らは城塞都市ザロメニアの攻略まで見物でもしていろ!」


「まあ良いじゃないか。兵も1000くらいは減っているようだし、新しい兵の補充まで休んで後ろに回れよ」

「ぬかせ! それほど減ってはいないわ! 戦力に違いは出ておらん。だいたい俺と副官ジョンソリッドとマイクボンドがいれば、俺の軍は成り立つのさ」


「あーつまんねー、早くザロメニアに行こうぜ〜。此処から後一日もかからねー距離にあるんだろう? ザロメニア」

ケインドラグマがつまらなそうにそっぽを向く。


「明日にはザロメニアを攻めるから今日はもう我慢しろ! まったく気の短いやつだな、お前は!」

ピートキャストが呆れたように言った。


「オ! ケントの軍がついたようだな。やつをかまってくるかな、ああ、つまんね〜」

ケインドラグマが踵を返してケントの軍に向かった。


「たく、困ったやつだ。ケインの奴、よくあれで将軍が務まるもんだ」

立ち去るケインドラグマを見ながらピートキャストが呟いた。



ケントギルガメス軍が到着し、その後ろにグラムヒューイット軍が続いていた。獣人軍精鋭四万がもうすぐこの地に集結する。

その後ろには虎族の王オリンピアサドニスが6万を率いてゆっくりと移動していた。その六万の中には非戦闘員も含まれている。実際の軍人は三万、戦闘可能な予備役のものがニ万で有る。残りの一万は幼子か妊婦だ。

予備役二万によって奴隷達の管理が行われている。使えない奴隷はすぐに殺処分されていく。そしてその肉は食料となるのだ。

獣人は人間を同族とは考えていない。人間が牛や豚を食うように、彼らは人間を牛豚のように見ているのだ。彼らからすれば、人間は狩りの対象なのだ。そして強い相手を倒すほど名誉で有る獣人達にとって、人間は様々な宝や道具を持ち群れをなして反抗してくる最高の獲物と言えた。


「おい、ケント! 今日はご馳走だぜ。ピートの野郎が人間の軍を狩ったようだ。此処でしばらく休もうぜ!」

ケインドラグマがケントギルガメスに言った。さっきは今にも戦争に行きたいというように言っていたのに話が違う。


「はは、心にもない事を言う。お前は手柄を立てたいのだろう。俺を此処に足止めして、お前は先に進むのではないのか?」


「そうしたいのは山々だが、ピートに先鋒を譲れと言ったら断られたよ」


「当たり前だ。許可など取れるはずもない。ピートが許可など出すものか。俺は奴など無視して先に進ませてもらうぜ」


ケントギルガメスがケインドラグマを見下すように一瞥するとそのまま軍を進めていった。


ケインドラグマは後に残されケントギルガメスの軍を見送る。


「ケントらしいな。こうしてはおれん。俺も軍を進めよう」

ケインは休憩している自分の軍に向かった。



「ピートキャスト様! ケントギルガメスの軍が合流せずに軍を先に進めております。ケインドラグマの軍も移動の準備を始めた模様」

ピートキャストの元に報告が上がった。


「たく! 奴等はどいつもこいつも命令無視か! 先鋒を仰せつかったのは俺だぞ! だが奴らも手柄をあげたかろうさ。良い。放っておけ。どうせザロメニア城塞まで敵は現れんだろうさ。ゆっくりとザロメニアの周りで合流するとしよう」

ピートキャストが不敵な笑いを浮かべる。


「報告します。ケントギルガメス軍に続いてグラムヒューイットの軍も彼らの後についていくようです」

「良い。放っておけ。我々は戦果を回収して王に献上せねばならぬ。作業を急がせろ」

「は!」

報告に来た兵士が立ち去った。今日の戦果、それは多量の人肉と武器防具で有る。それらを回収して王に献上しておかねば勝利の栄誉は得られないのだ。


城塞都市ザロメニアの攻略の総指揮官はピートキャストに任されている。彼らが勝手に城塞都市ザロメニアの側に陣取っても、ザロメニア城塞に攻撃を開始する事は流石にないだろうとピートキャストは思うのだった。


「ピートキャスト様、奴らが勝手に城塞都市に攻撃を開始しないように私が釘を刺して参りましょうか?」

ジョンソリッドがピートキャストに具申するとピートキャストが答えた。

「良い。流石にそれは無いだろう」

「いえ、私が彼らの立場なら、必ず攻め始めますからなあ」

「なな、なんだと〜、それが普通か? 」

「はい。普通……ですね」


「わじゃった! ジョン、行ってくれ!」

「は!」

ジョンソリッドが踵を返して走り出した。

ピートキャストは頭を抱えて首を振り、過去の自分を振り返るとジョンソリッドの言っていることが正しいという事に気がついた。そして急ぎ軍を出発させねばと思うのだった。

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