298 アルバス

宿屋に戻ったキル達4人は、他の班が戻って来ると情報の共有を行った。

想像通りグラ達やロム達も、獣人とザンブク王国の戦争の話は耳にしていた。


グラとロムの意見としては、獣人の戦争についてはまだ様子見で良いのではないかというものだ。

ロマリア王国と獣人が戦争を始めたら考えても遅くない。場合によってはロマリア王国のために手を貸してもそれはベルゲン王国が戦争に巻き込まれないためには有益な事なので、積極的に行っても良いという事になった。


「次の街はテクア、そしてドグリ。この二つは飛び越えてその次のアルバスで一休みしよう。あそこは大きな街だからね」

翌日、グラがフライを使う前に言った。


「あそこは……」顔を見合わせる少女達。


「大丈夫だよ。ハーメルンはもういないから」

キルが少女達の気持ちを察してドラゴンロードとピンチュンがハーメルンを取り除いた事を説明する。


「そうでしたわね、あれはドラゴンロードさんとピンチュンさんの仕事でしたわね」

クリスも少し微妙な笑みを浮かべた。その話は全員が知っていたけれど、後任の人間も似たような者だと嫌だなあ……という思いは拭い切れないのだろう。後任の人間はあのハーメルンの血縁者に違いないのだから。


「あのギルド長は変わってないっすよね。ギルドにはよらないほうがいいっす」


「別にギルドによる必要はないし、よらなければ良いんじゃないか」とキル。


「アルバスは大きな街だから、いろいろな情報が得られるかもしれないし、一泊はしておきたいね」

グラが迷いながら言った。


「街を歩くだけならきっと大丈夫よ。またあんなのがいたら消えてもらいますけどね」サキが怖い顔をする。赤い眼が鋭く光った。


みんなは納得して移動を開始した。フライを唱え空に飛び上がる。

2つの町を飛び越えるのはかなりの長時間フライトになる。みんなそのつもりで地上から見つからないように高く高く飛び上がった。


アルバスに着くと遅めの昼食を取るため宿を決める前に飯屋に直行した。ここでも3班に分かれて行動をとる。アルバスの街は以前来た時以上の賑わいのように感じた。


「キル先輩、以前来た時よりこの街活気がある気がするっすけどどうしたんっすかね?」


「俺もそう思うよ。きっと以前の領主より今の領主の方がマシなんっじゃないかな」


「あ、そうっすね!前の領主は最悪っすもんね。今の方がマシに違いないっす」


「そういう事ですのね」


「納得がいくであるな!」


前領主の悪政が無くなっただけでもかなりの経済効果が有るに違いない。今の領主が善政を行なっているとは限らないがマイナス面が多少なりとも少なくなっている事は間違いなさそうだ。


キルは周りの人たちの世間話に耳を傾けた。大方が獣人とザンブク王国の戦争の話だが一組だけ別の話をしている者達がいた。


「此処の新領主は以前の領主に比べて経済政策には明るいようだが女癖は引き継いでいるようだな」


「経済政策に明るいと言うか、金儲けに熱心なんだろうなあ。商人との癒着は相当広くに及んでいそうだ。女癖は悪いのだろうが前領主ほど悪質ではないようだぞ」


キルは話をしている二人の男をチラリと見てみる。

一人のジョブは上級斥候、もう一人のジョブは上級アサシンなのがわかる。

(こいつら、只者ではなさそうだな……)


二人は話を続ける。

「どうする……」


「今はあまり動くのは良くないだろうな……隣の国の情勢次第で国をあげての戦いになるかもしれないからな。貴族の力は必要だ……どうしょうもない輩を除いてな」


「なるほど……なら此処は配り終えたら次の街に移動するんだな」


「そう言う事になるな」


(配り終えたら……次の街?なんのことだ?)


不審に思って聞き耳を立てていたキルだったが男達は食事を終えて店を出て行った。


キルは不審感からこの2人を密かに追いかけて探ろうかとも考えたが思いとどまった。


ケーナが小声で言った。

「今の二人、只者ではないっすね」


「俺もそう思う」


するとクリスが自分の考えを言う。

「きっと『マウスボーイ』じゃないかしら。領主が良いとか悪いとか……配る……とか言っていましたから……きっと悪い領主から奪った物を貧民に配ると言うことなのではないかしら?」


「なるほど、それなら彼らの話の辻褄が合うような気がするな」


「本当っすね、クリスよくわかったっす」


「当たっているかはわかりませんけれど……」

クリスは恥ずかしそうに俯いた。


3人は食事を済ますと店を出るのだった。

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