297 ノルンの街の噂

玉露山ダンジョンは緑山泊にほど近いAランクダンジョンでフクラダンジョンと同じパターンのダンジョンだ。緑山泊にいた当時何度も潜った事があった。


『15のひかり』は玉露山ダンジョンを3日で攻略して6日で地上に戻った。エンペラードラゴンはやはり居なかったが宝の箱からは身代わりの腕輪をてにいれた。身代わりの腕輪は装着者のHPが1になった時にパーフェクトヒールを発動して壊れるというものだ。盾使いのルキアに装着させた。


その後の情報を得るために緑山泊に立ち寄りロマリア王国に向かうことを伝える。

ゾルタン達は『15の光』を歓迎してくれたが、そのままロマリア王国に向かった。緑山泊ではホーランの兵が『マウスボーイ』にあしらわれたという情報を得た。キルの心配は杞憂に終わったのかもしれなかった。


『15の光』は予定通りロマリア方面でエンペラードラゴンを探す為、ロマリア王国との国境を抜けてノルンの街で宿を取った。以前通った事のある街だ。大人数で行動すると目立つのでキル班、グラ班、ロム班の3班に分かれてつかず離れず微妙な距離をとって行動するようにした。

キル班はキル、クリス、ケーナ、ユミカ。グラ班はグラ、サキ、モレノ、ルキア、マリカ。ロム班はロム、ホド、エリス、ユリアだ。


ノルンの街はベルゲン王国とロマリア王国の関係悪化に伴って以前より活気が無いように感じられた。ニ国間を行き来する人間が減って経済活動が縮小しているのだろう。と言えどもそれなりには栄えている。ノルンは国境近くの街という利点があるのだ。


3班に分かれて別々の店で食事をとりながら情報収集に勤める。


キル達が入った店では周りの人間の話は皆一つの噂の真偽やその中身についてだった。

ロマリア王国の西にザンブク王国という国がありその国が西からやって来た獣人の軍勢と戦争を始めたが劣勢だという噂が流れていた。このままではザンブク王国が征服されその勢いで獣人達がロマリア王国に攻め込んでくるかもしれない……そういう心配について人々は論議をしているのだった。


「キル先輩……これならロマリア王国がベルゲン王国に攻め込んでくる心配はなさそうっすね……」

ケーナが小声で呟いた。


「そうだな。それどころではなさそうだ」とキル。


「それでは安心してダンジョン攻略ができそうですね」とクリス。


「ああ、しばらくはそれで大丈夫そうだね」


「獣人って知ってるっすか?」


「俺も初めて聞くよ」


「昔お婆様に聞いたことがあります。西の方には獣人という獣と人の混血のような者の国が有ると」


「シザードウルフチーフのような奴らかな?」


「あんなのが攻めて来たっすか?ヤバイっすね」ケーナが顔をしかめた。


「あれは魔物ですから……ちょっと違うのではありませんの?」


「確かにそうだが……」


「そうっすよ、先輩。流石にあれは無いっすよ。あれが攻めて来たら国が滅ぶっす!」


「だな」


「とりあえず良かったじゃないですか、ロマリア王国はベルゲン王国に攻めてこなそうですし」


「ロマリア王国の代わりに獣人軍が攻めてくるようなことがなければな」


「そういうパターンもあり得るっすか?」


「ロマリア王国が獣人軍に征服された場合はそうなるんだろうな」


「この話、グラさん達やロムさん達とも共有しましょう。大人の意見も聞きたいですし」


「そうだな。きっとグラさん達の耳にもこの噂は入っているかもしれないね」

キルは考え込むように言った。


「これだけみんなが話してるって事は、グラさんやロムさんの所でもみんなが話してるっすよね」


「グラさん達もロムさん達もこの話は耳にしてますわね、きっと……」とクリスも考え込んだ。


「そんなに難しい事で有るか?隣の隣の国の話なのであろう?」とユミカが首を傾げた。


「ユミカの言う通りだね。隣の隣の国の話だものな……心配するのはもう少し先の話かもしれないな」

キルは冷静に考えた末にそう言ったが、この事は今後も注意を払わなければならないと思った。

もし獣人がロマリア王国を征服したらその次はベルゲン王国を征服しようとするに違いないのだ。

その前に獣人の軍を打ち破れば問題ないのだが、ザンブク王国やロマリア王国にそれができるのかはわからない。


キル達はその店では獣人軍の話以外は情報は得られず宿屋に戻るのだった。

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