294 ホーランの街の 噂

「飯はどうするんだ?早く繁華街に出かけようぜ!」ドラゴンロードは反省しているようには見えなかった。


アルベルトが心配そうにドラゴンロードを見る。

「今晩はゆっくり眠りたいからな、騒ぎは起こさないでくれよ」


「大丈夫だって、もうやらねーから。俺もゆっくり寝たいからよ!」


「よし、行くぞ」

アルベルトを先頭に飯屋を探しに出かけた。ホーランの街の繁華街はそれなりに栄えていた。

割と冒険者が多そうに見える。冒険者が多いという事は荒くれ者が多いという事。要注意だ。

キルはドラゴンロードのサイドを固めた。


5人は小さめの店を選んでひっそりと晩飯をとった。テーブルが4卓でせいぜい満席でも20人程度しか入れない店だ。隣のテーブルの話が聞こえてくる。


「兵士の募集なんだけどよう、おまえどうするんだ?」

「ああ、あれか…俺は受けようかと思ってるぜ」

「この前の戦争に行った奴らだいぶ死んだらしいじゃねーの?」

「そうなのか?」

「なんだよ。しらねーのか?第3第4軍に配属された奴らは散々だったらしいぜ」

「ほんとうかよ?ここいらの奴らは王都で暇をしていたって聞いたぜ」

「それはな!第3第4軍がめちゃめちゃやられたので第1第2軍の派遣が中止になったからだぞ」

「てことは、行ったらやばいってことか?」

「今度もベルゲン王国相手に戦争するとなると結構やばいかもな」


キルたちの耳に気になる内容の話が聞こえてきた。キル達は顔をみあわせ聞き耳をたてる。


「だったら俺、参加するのをやめようかな」

「お、ビビったのか?ビビってんのか?」

「ちげーよ。俺は冷静な判断として参加を取りやめようかって思っただけだ。」

「ははは、お前だけに良いことを教えたやるよ。ここだけの話だがな、今回の募集、あれ、ここの領主のかけた募集なんだとよ!」


お前だけに教えるとか言って店中に聞こえてるぞ…と思うキルだった。


「それはどういうことなんだよ?どういう意味があるっていうんだ?」

「分からね〜のか?」

「ああ、分からね〜から聞いてるんだよ」

「だからよお!お前、ここの領主だけでベルゲン王国と戦争すると思うか?」

「思わ〜ねーなあ?」

「つまりそういうことよ〜」

「どういうことだよ?」

「今度の兵士募集はこの前のとは違ってベルゲン王国に攻め込むためじゃあないってことさ」

男は偉そうに言った。

「じゃあ、何のために兵士を募集するんだよ?」

「それはな……領主に聞くんだな。俺にはわからん」

「な〜んだ、結局知らね〜んじゃねーか」


聞き耳を立てていたキル達だったが、男はそこまで重要な情報は持っていなかった様だ。

食事を終えて店を出るまで客達の無駄話に聞き入っていたが気になる情報は領主がギルドで兵士を集めているらしい…という事だけだった。


アルベルトが歩きながらキルに意見を求めてきた。

「何故兵士を募集しているのか調べるべきかな?それともかまわず緑山泊に戻るべきかな?」


「どの位の数の兵士を集めてるんでしょうね?この街のギルドだけならせいぜい数百といったところでしょうか?数千の兵士を集めるとなると一般人からも兵士を集めてるんでしょう。この場合はどこかと戦争なのは決まりですね」


「数百だった場合は何が考えられるんだ?」


「魔物の大量発生なら情報として書いておきそうなものですから……盗賊団に奇襲をかけるとか?」

キルが首を捻りながら1つの可能性をあげた。


「そんな大きな盗賊団がこの辺にあるのか?」


キューリーが珍しく口を開いた。

「ロマリア東部を縄張りにする盗賊団『マウスボーイ』は貴族から金を盗んで庶民にばら撒くと聞いたことがあります」


「なるほど、それなら兵士を集めるために詳しい事は公表できないな」アルベルトが納得した。


「おそらくそれでしょうね」キルも頷く。


「『マウスボーイ』は良い奴らみたいじゃないか?助けようぜ」ドラゴンロードが身を乗りだす。


「待て待て、おそらく『マウスボーイ』くらいの義賊なら協力者も多いだろう。討伐隊がくる前にどこかに雲隠れしてしまう可能性が高い。その時は冒険者は戦わずして金を手にする事になるだろう。放っておいても良いんじゃないか?」アルベルトは腕を組みながら言った。


「そうかもしれませんね。我々は緑山泊に急ぎましょう」


キルの意見にキューリーとナイルが頷いた。ドラゴンロードは少し不満そうだ。


5人は宿屋に着くとその晩は十分に休養を取るのだった。

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