292 アルベルトの憂鬱

夜間飛行が初フライとなった四人はなかなかハードな初飛行だったかもしれないが、大きな事故もなく今では安定した飛行を行っていた。

スタインブルクは遥か北だ。


深夜にも関わらずドラゴンロードはノリノリだ。

「ヒャホー!ドラゴンの俺様が飛べね〜てのがおかしかったのよ!飛べるようになる運命だったってえ訳だよなあ!」


無駄に旋回したり大回りしたり錐揉み回転したりとまるで子供のように飛ぶ事を楽しんでいる。

それを見るキルとアルベルトは呆れて言葉も無かった。


あ〜あ、呑気なもんだよ、まったく遊ぶためにフライを覚えてもらったんじゃないんだけど…


キル達は深夜に脱獄をした為、安全圏まで逃げるのに無理をして早朝まで飛行しなければならなかった。


スタインブルクから十分に離れたとある町で駅馬車に乗り馬車の中で仮眠をとった。

昼頃に駅馬車は終点の街につきそこで食事を取る。


食事をとりながらキルは言った。

「もう俺は此処で別れてルビーノガルツに帰っても大丈夫でしょうか?」


アルベルトとドラゴンロードが顔を見合わせる。


「なんだ、緑山泊に寄って行かねーのか?」


「此処までくればキル君がいなくても問題は起きないと思うよ。此処で別れよう。協力に感謝する」

アルベルトがキルに気を使ったのか、キルが帰ることを薦めた。


「まあ、仕方ねーな。楽しかったぜ!今度は任務なしで本当に遊びに行くからよ」


「はは、任務があっても別にかまいませんけどね」

苦笑するキル。


「助けてくれて感謝している」「この恩は忘れない」キューリーとナイルがキルに握手を求めた。


「いえいえ、俺は緑山泊の手伝いをしただけですよ。助けたのは緑山泊の意志です。キューリーさんもナイルさんも別に悪事を働いたわけではありませんし悪人にも見えません。緑山泊の棟梁達はそういう人を助けて世の為人の為になる事をしようと考えていると思いますよ」


「そんな小難しい事は考えていねーけどなあ?悪い奴は懲らしめて、良い奴は助け出す。それだけじゃねーのか?」とドラゴンロード。


「話がややこしくなるから、お前は黙れ」

アルベルトがドラゴンロードをたしなめた。

ドラゴンロードは面白くなさそうに横を向き、肉を頬張った。


面白くなさそうなドラゴンロードの横顔が面白いものを見つけたようにニンマリとした笑顔に変わった。


その視線の先には10人くらいの子分を連れた厳つい顔で背の低い男が店に入って来るのが見えた。


「ふふーん」ドラゴンロードの目尻が下がる。




「おい店主!飯だ!飯にしろ。1番美味いものを出すんだぞ!」

入って来るなり威張り散らす厳ついチビ。周りで人相の悪い部下達が凄みを聞かせる。


ドラゴンロードの目尻が更に下がった。


「親分さん、勘弁して下さいよ……こう毎日ただ飯を食いに来られてはうちも潰れてしまいますんで」

店主が頭を下げる。


「なんだとこら!てーめえ、誰のおかげでこの店が安心して商売出来てると思ってるんだ!あ〜!」

人相の悪い部下の1人が店主の胸ぐらを掴んだ。


「すみません、すみません、今お持ちします、今、すぐお持ちしますから」

店主は平謝りに謝った。


「早くしろよ!美味いもの出すんだぞ!!ケチりやがったら店をぶっ壊すからな!」

男が店主を突き放した。


「すみません、すみません、すぐお持ちします」店主が奥に入って行く。


ドラゴンロードが男達に背を向けて聞こえよがしに言った。

「やだねえ、今時たかりかよ!あ〜貧乏くせ〜。臭くて飯が不味くなるぜ〜」


部下の男が顔色を変えた。

「なんだと、このやろ〜!それは俺たちのことか?あ〜!」


ドラゴンロードがムフフと笑って立ち上がり振り返った。

「決まってんだろう!お前、自分の臭いがわからねーのか?」


「ふざけんなよ!ぶっころーす!」

男は叫んでドラゴンロードに殴りかかった。ドラゴンロードはひらりと躱してカウンターのパンチがを繰り出した。10人の男達がドラゴンロードを囲んでパンチを繰り出す。たちまち乱闘が始まった。


「ドラゴンスキン」ドラゴンロードがお得意のアーツを使って防御力が跳ね上がった。防御力が高くて小悪党如きのパンチが当たってもまるで効かない。逆に殴った拳の骨が折れる始末だ。

180cmのゴリマッチョが上機嫌で暴れまわる。10人の部下達は次々に殴り倒され店の外に放り出された。


「お、お、覚えてろ〜!」厳つい顔のチビが戦わずに逃げ出した。


「アハハハハ!覚えてられるか、馬鹿者め!」

ドラゴンロードはスッキリしたような顔で毒付くのだった。


アルベルトは額に手を当てて塞ぎ込んだ。


「俺、あれですかね、緑山泊まで目を離さずついてかないとアルベルトさん1人ではなんですかね?」


アルベルトがキルを見上げて言った。「悪いがそうしてくれるか?」

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