290 スタインブルク 2
キルはドラゴンロードの後に黙ってついて行った。
ドラゴンロードは堂々と歩いて行く。その方がかえって怪しまれないのだろう。堂に入ったものだ。
経験値によるものなのか、才能かはわからないが経験の浅いキルはドラゴンロードのように堂々と歩く事に抵抗を感じてしまう。ビクビク歩いていたら怪しまれてしまう。気をつけなければ。
寝静まる繁華街を進んでいたドラゴンロードがとある路地に入って行った。キルもドラゴンロードの後に続く。そして一つの扉の前で止まった。
ドラゴンロードは周囲に人がいない事を確認すると扉をノックする。
『トントン。トントトン』
小さく扉が音を立てる。この叩き方が合図なのだろうか?扉の鍵があいた音がした。
ドラゴンロードは振り返ってキルの顔を見ると扉を開けた。
すっと中に入るドラゴンロード、キルも後に続いた。
見ればドラゴンロードの横にアルベルトがいる。
アルベルトはキルに奥に入るように手招くのだった。
「遅かったじゃないかドラゴンロード。何処で油を売っていたんだ!」
「俺たちがちょっと王都の方のダンジョンに出かけていて暫く留守にしていたんです。ドラゴンロードさんはそれで待たされていたので悪くはないですよ」
「そうだぜ、気が短すぎるんじゃねーのか!」
ドラゴンロードがアルベルトに言い返した。
「悪かった、ちょっと気が急いてしまってな。」アルベルトは素直に謝った。
「それで、おめーの方はどうなんだ?情報はつかんだのか?」
「ああ、今からでも救出に行けるぞ」
「ちょっと待ってくれ。俺は丸2日馬を走らせて来たばかりなんだぞ。いくらなんでも今晩くらいは休ませてくれ」
「そうだな、じゃあ明日の晩救出作戦を決行するとしよう」
ドラゴンロードが黙ってキルの顔を見る。
「わかりました。明日救出作戦を決行するんですね」
ドラゴンロードはムッとした顔でアルベルトに向き直る。
「で、段取りはどうなってるか説明してくれ」
アルベルトが説明を始めた。
「救出したい人間は二人。第2聖騎士団団長キューリーと第3聖騎士団団長ナイルだ。元団長と言った方が良いかな。」
第2第3聖騎士団といえばこの前ベルゲンダイン王国に攻め込んできた軍じゃないか?とキルは思った。だとすれば俺はその二人と戦ったかもしれないな。
考え込むキルの顔に気付いたアルベルトが話を続けた。
「キル君は彼等の軍と戦ったかもしれないが、その戦いに敗れた事が彼等が幽閉された原因だよ。敗戦の責任を取らされたって訳さ」
「アルベルト!あんたと一緒で敗戦を理由に権力の座から引き摺り下ろされたって事かい?」
ドラゴンロードが口を挟んだ。
「教皇達は将軍達を追い落としたいのさ。出来るだけ新米の将軍の方が自分達に逆らえないだろう。敗戦はその良い理由付けになるんだろうな」アルベルトが苦い顔をする。
「呆れたもんだねえ〜」
「そういう奴等さ、教皇なんてのはな。それで救出したい二人だがやはり教皇庁の地下牢獄に閉じ込められているのがわかった。俺の時と変わらんな」
「フーーン」
ドラゴンロードの気のない返事。
「そこに忍び込んで二人を救出すれば良いんですね」キルが確認する。
「そういう事だ。警備の兵士配置だが……この建物の図面を見てくれ、地下三階の牢獄までのルートと兵士の配置はこうだ」
アルベルトはテーブルの上に広げた図面上をルートに沿って指でなぞる。
図面には入り口から牢獄まで線が引かれ警備の兵士の配置が記されていた。
ドラゴンロードとキルが図面を覗き込む。
「頭に入れておいてくれよ」アルベルトが二人に言った。
「おうよ!」「はい」
「二人を救出したらここに戻って城壁を出るチャンスを待つ」
「その足で出ちまうんじゃないのかよ」
「おそらくそれは無理だ。城門に協力者がいるとはいえそれ以外の者の目を避けきれないだろう。暫くして警備体制が通常通りに戻ってから城門を抜ける」
「追われてここに戻れないときはどうするんだよ?」
「追手をまくか、倒して解らないようにここに戻るんだな」
「マジかよ、厳しくねーか?」
「厳しいが俺の時もそうして逃げられたぞ」
キルは二人にフライを覚えさせれば飛んで逃げられると考えたが飛行訓練をしていたら目立ってしまうし、ぶっつけ本番は厳しいかと思い直した。ここはアルベルトの言う通りにやってみようと思う。
「決行は明日の深夜だ。それまでは街中の道を覚えておいてくれ。歩いておかないとここに戻れなくなるかもしれないぞ」
「それはキルだけの話だな。俺は大丈夫だぜ」
ドラゴンロードは今までの経験でこの街の道はよくわかっているらしい。キルはこの街に来たのは初めてだ。当然道もわからない。
「明日一日は街を歩き回っておきますよ」キルはアルベルトの忠告を素直に受け止めるのだった。
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