289 スタインブルク 1

翌日、キルとドラゴンロードはルビーノガルツを後にした。


「だいぶ予定より遅れちまったな」馬を走らせるドラゴンロードが呟く。キルは遥か上空からドラゴンロードを追尾している。キルは馬の走る速度に合わせて飛んでいるためいつもよりかなりゆっくり飛んでいた。


高高度から見下ろす風景は壮観だ。一面に広がる大平原にポツリポツリと見える城郭都市。

1番近くに見える城郭都市がアムテル、そしてその向こうに見えるのがダミアだろう。その先にマークキスが有り、スタインブルクはその先だ。


「あの辺りで戦ったのかな?うーん。それにしても馬って走るの遅いんだな〜。ペケさん重いのかなぁ?まあ重いかもな」キルはドラゴンロード(ペケ)の体型を思い出しながら呟くのだった。

ドラゴンロードはよく上級盾使いで見かけるゴリマッチョの大男(180cm)だ。それが大盾を背負っていれば軽いはずはない。馬だって走るのが遅くなっても仕方ないな……とキルは納得する。


「ペケさん置いて先にスタインブルクに行っちゃおうかな?スタインブルクでどうやってアルベルトさんと落ち合うのかな?何か目印を決めてるのかな?置いていって良いかなんて聞いたらペケさんきっと怒るよね〜。やめよ、良いや、遅くても」

キルは1人でぶつぶつ呟きながらゆっくり飛んでいた。


それでも早朝から日暮まで馬を走らせるドラゴンロードは1日でアムテルを抜けてダミアに到着した。ダミアでキルとドラゴンロードは一泊する。


夕飯は繁華街に繰り出すドラゴンロードと仕方なく付き従うキル。


「俺、まだ酒は飲めないんですけど〜」


「何言ってるんだい。もう飲んでも問題ないだろう?酔ったら魔法でなんとかできるんじゃねーの?」


そう言われれば毒を無効化するとか、ヒールで回復するとか、何か効きそうな魔法を試せばなんとか出来そうな気がする。でもそう言う問題じゃないでしょう。

キルは酒は付き合わずに食事だけ付き合った。


晩酌をしたドラゴンロードはしっかり出来上がっている。キルはドラゴンロードにスリーブの魔法をかけて眠らせた。放っておけば喧嘩をし出しそうだったので、ドラゴンロードが問題を起こす前に対処したのだ。別の意味でキルが適任だったのかもしれない。


「困った人だな……」キルは眠ったドラゴンロードを背負いながら宿に帰るのだった。


翌朝ドラゴンロードは何事もなかったかのようにすっきりした顔をして馬を走らせる。

キルはまたゆっくり空を飛んだ。


今晩には夜陰に紛れてスタインブルクに潜入する予定だ。スタインブルクに緑山泊の隠れたアジトが有るそうだ。アルベルトとはそこに行けば会えるはずだと昨日ドラゴンロードに聞いたのだ。


キルはステルスのスキルを使い姿を隠せば上空から苦もなく潜入できるがドラゴンロードはそうはいかない。ドラゴンロードが城塞都市のスタインブルクに潜入するには聳え立つ城壁をどうやって突破すれば良いのだろうか?


黒い布に包んでキルが上空から抱えて連れていくのか?それともドラゴンロード1人で何処かから入り込めるのか?キルは城塞都市の手前1キロくらいの地点で地上に降り立ちドラゴンロードと合流した。


「ドラゴンロードさん、どうやってあの壁の中に入るんですか?」


「門番の一人に緑山泊の仲間がいるのさ。夜中の見回りの時にそっと入れてくれる手筈になってるんだ」ドラゴンロードがニシシと笑う。


何処にでも仲間がいるんだなあ……緑山泊スゲ〜、と思うキルだった。


深夜になってキルはステルス状態で城壁のそばに、ドラゴンロードは黒い布に隠れて城壁のそばで仲間を待った。


城門の横の小さな扉がチョコっと開いて一人の男が顔だけ外に出し周囲を眺めた。俺達を探しているようだ。


「いるよ」小さな声でキルが告げる。


あまりの近くから声をかけられて男が腰を抜かす。


ドラゴンロードも黒い布をとって扉に近づいた。


「静かにな……」ドラゴンロードが小声で腰を抜かした男に手を差し出し起こしにかかった。


「はい、静かについてきてください」立ち上がった男は扉の中を案内し出した。ドラゴンロードがその男の後をついて行きキルはステルス状態のままドラゴンロードについて行った。


城門をくぐり抜け後は何食わぬ顔で街の方に歩き出すドラゴンロード。

潜入は成功だ。


ドラゴンロードが立ち止まって不審そうに周りを見回す。

「いるんだよなあ?」小声で呟いた。


「いますよ」キルも小声で答える。ドラゴンロードがビクリと反応した。


周囲に人がいない事を確かめてキルは姿を現した。

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