288 待っていたドラゴンロード(ペケ)

ルビーノガルツに戻ったキル達はホームで意外な人物に会うのだった。


「よう!ちょっと待たせてもらっていたぜ!」


ホームでくつろいでいたのは緑山泊の暴れ竜ことドラゴンロード(ペケ)だった。

この男上級盾使いだが力が強すぎて気を抜くとつい力が入り過ぎてしまうという悪癖を持つ。

そのせいで喧嘩で人を殴り殺してお尋ね者になった過去を持っていた。


「ドラゴンロードさんじゃないですか?そういえばこの前遊びに来るとか言ってましたね」

確かドラゴンロードさんが遊びに来るとか言ってた時にはまだルビーノガルツに住む事になる前の事だったような気がする………とキルは思った。


「実はな、ジルベルトに頼まれてキル君に野暮用を手伝って欲しいのさ!」

ドラゴンロードは気まずそうに頭を描いた。


「それは構いませんけれど、よく此処がわかりましたね?」


「ああ、初めはパリスに行こうと思っていたのだがな……ジルベルトが此処だろうと言っていたのさ」


ジルベルトにはユニークスキル『シミュレーション』が有るからキル達が此処にホームを移す事が予想されていたのかもしれない。


「それでどんな用事なんですか?」


「宗教国家スタインブルクにな、牢に閉じ込められている人間がいてな、そいつらを救い出して緑山泊で保護したいんだとさ。元スタインブルク将軍で特級聖騎士、将軍崩れのアルベルトのオッサンがよ、もうスタインブルクに潜入しているはずなんだが〜、オッサンと協力して任務を果たして欲しいんだとさ」


「つまり、スタインブルクに潜入して牢破りの手伝いをして欲しいって事ですか?」


「俺達で牢破りをするんだよ」ドラゴンロードがあっけらかんと言う。


「また犯罪者になってしまいますね」


「この国とは関係ないから大丈夫だろう?」


「まあ……そうですね」キルは迷いながらも頷いた。


「ちょっと待て、キル君。今まで逃げ回って苦労してきたのは牢破りをしたからじゃないか」

グラが驚いてキルを止めた。


「そうよ、今度はスタインブルクの刺客に狙われる事になるかもしれないわ」

サキもグラの意見を補足した。


「そう言う意見ももっともだと思うぜ。せっかくこの国の恩赦が出たんだしな。だがあんたらロマリアに行けば大量殺人犯じゃないのかい?」


グラは言い返す言葉に詰まってしまった。


「別に手伝ってくれなくても良いんだぜ。これは緑山泊の仕事だからな。手伝ってくれなくても今までだってできていた事だしな。なにせ、アルベルトのオッサンだって同じように緑山泊が手助けして脱獄してきた男だからな」


キルは顔を顰めながらドラゴンロードに問いただした。

「何故ジルベルトさんは俺に手助けを頼むようにと言ったのですか?」


「それは俺にはわからんが、たぶんそれが最良の方法だったんだろう?まあ気にするな、お前がいなくても俺とアルベルトでなんとかやるさ」

ドラゴンロードが不敵に笑う。


ジルベルトはユニークスキル『シミュレーション』でキルがいく事が最良という答えを出したのだろう。確かに俺ならステルスやスリーブ、解錠などの適したスキルを持っているので適任なのだ。上手くすれば俺が関わっている事すら知られることも無く助け出す事もできるに違いない。


「グラさんやサキさんの心配もわかりますし、俺のことを思ってくれているのも嬉しいですが、きっと俺が手助けした方が上手くいくと思います。俺のスキルなら相手に知られることもなく脱獄させる事も可能かもしれません。だから、俺に任せてみてはくれませんか?」

キルはこの計画の手助けをする決心をした。緑山泊の人たちにはこれまでたくさん助けてもらっているし、これも人助けに違いないのだ。


グラとサキは顔を見合わせて眉根を寄せる。

「身バレしない様にできる自信が有るのかい?」


「大丈夫だと思います」


「仕方ないわね!気をつけるのよ」サキが諦め顔で言った。


「無理しなくてもいいんだぜ。キル君が無理ならロマリアからクリープの奴を呼ぶだけだからな」

ドラゴンロードはグラとサキにすまなさそうに言った。


「クリープさんがロマリアの仕事をできないと別の意味で危ないんじゃないですか?そこは戦争に直結しそうで、もっと嫌ですね。やはり俺が手を貸しますよ」

キルはクリープの話が出たことで、ロマリアの状況も気掛かりな状態なのだと理解した。そうでなければジルベルトはクリープをこの任務に送ったはずだ。


「そうかい。助かるよ」

ドラゴンロードはキルに感謝の言葉を告げるとグラとサキの方を見て言った。


「悪いがキル君を借りていくぜ。大丈夫、俺がついているからな」


それが1番不安なんだけど……サキは思った。


「自分もついて行きたいっすけど?」ケーナが同行を申し出る。


少女達が我も我もという表情をした。


「キル君以外は同行させるなとジルベルトに言われているんだ。人数が多すぎると発見の危険が増すんだとさ」ドラゴンロードがケーナの参加を断る。


「ジルベルトさんのスキルがそう言っているらしいから従おうよ」キルは諭すように優しい目をケーナに向ける。


「わかったっす」


少女達の不安げな表情にキルが笑って答える。


「大丈夫、俺は神級アサシンでも有るんだから、隠密行動も神級なんだぜ、足跡は残さず事を成し遂げてくるよ」


少女達の表情に明るさがもどった。

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