280 ミノタダンジョン 3

「この国最強……ですか」

魔術師の女は驚いて目を見張る。


「わかりませんけれどもね、たぶんその位強いですよ。少なくともエンシェントドラゴンを1人で倒した事がありますからね」


「………」

魔術師の女が絶句する。


「こんにちは、私はサキ、あなたと同じ魔術師よ。よろしくね」


「あ、失礼しました。私はミキです。彼が盾使いのダム、まだ眠っているのが剣士のクムです」


「クムさんきっともうすぐ目を覚ましますよ。息もしっかりしてきましたしね」


「ありがとうございます」ミキが手のひらを口と鼻に当てて涙を流す。


ミキの肩を抱くサキ。


盾使いのダムがグラの話に興味を持ったらしい。

「キルさんは何級の冒険者なのですか?ジョブは?」


「我々は全員Aランクの冒険者です。ジョブは全員神級です」とグラ。


「全員神級!」


「ははは、ちょっと特殊でしょう?」


「すす、凄いですね。確かにこの国1という言葉が出ても不思議ではないわけですね。確かに一撃でハーピー10匹を一瞬で倒す実力、神級に違いない。では今回の目標はこのダンジョンの攻略ですか?」

ダムは顔色を変えて聞き直す。


「いえ、私達はエンペラードラゴンを探していまして、取り敢えずダンジョンの最深部にエンペラードラゴンがいないか確かめているのです。」


「す、す、凄いですね。すみません私達のために貴重な時間を使っていただいて」


「そんな事ないのよ。いつも散歩しているような物だもの。きっとこのダンジョンだって空振りに違いないしね」とサキが笑う。


「それじゃあ、これからダンジョンの最深部に潜るんですか?」


「予定ではね」


キルとケーナがグラの元に報告にやってきた。


「テントは張り終わったっすよ。晩御飯の用意ももうすぐっす。2人の分も有りますっすよ」

ケーナの横でキルが頷く。


「助けていただいた上に食事の用意まで、本当に申し訳ない。私達の食べる分は自分で出しますよ」

とダムが言う。


「大丈夫だって、私らの食事は熱々よ。とても美味しいから元気が出るわ。遠慮せずに食べなさい」

サキがにこやかに微笑んだ。


「サキさん、今日は機嫌がいいですね」とキル。


「あら、キル君何が言いたいの!」


「いえ……笑顔のサキさんって素敵だな〜と思っただけですよ」


顔を真っ赤にするサキ。


「キル君、大人をからかっちゃダメだぞ」とグラは言いながらサキを見て笑いを堪えていた。


「はい。それでは俺は向こうに行ってますね」

キルはテントの方に逃げ出した。


「明日の事っすけど……」ケーナが明日どうするかを確認したかったようだ。


グラは腕を組んで考える。

「此処は2人残ってもらえば十分に対応できると思うんだ。まあ1人でも大丈夫だろうけどもね」


「それなら私が此処に残ってあげるわ、もう1人は誰でも良いわよ」


「そういう事で、明日は11人で潜ります。此処に2人残って11人が戻ってくるのを待ってもらいます」


「わかったっす。皆んなに伝えておくっす」ケーナはそう言うと皆んなの方に戻って行った。


ロムとホドが焼きたての柔らかいパンと温かいスープを運んできてミキとダムに渡した。

ルキアとモレノがグラとサキの分を運んでくる。


「暖かい物を食べられるなんて信じられないです。美味しい。ありがとうございます」ミキが一口食べて笑顔になった。


「俺達は干し肉が中心の食事だからな……これはありがたい」ダムも感激しているようだ。

マジックバッグを持たない冒険者はできるだけ荷物を減らすために干し肉や硬いパンが携帯食の中心になる。それはお世辞にも美味しいとはいえない物だ。


「マジックバッグ…欲しいですね。やはり食事は大切よ」ミキが羨ましそうに呟いた。


「クムさんが目を開けたわよ!」サキがクムの変化に気付き皆んなに伝えた。


ミキとダムが寄り添う。


「クム!気がついたのね。気分はどう?」


「う……だ、大丈夫だ」


「クム!お前は大量に血を失っている。このスープを飲んで栄養を摂るんだ!」ダムが手にしていたスープをクムに飲ませた。


「良かったですね、体の傷はキル君の魔法で治っているはず。後は失った血が補充されてくればまた動き出せるでしょう」サキが3人を安心させるコメントをした。


「本当にありがとうございます」ミキがまた感謝を口にする。


「うん、これなら数日で歩けるようになるだろう。それまでは此処で時を待つほうが良いよ。ハーピーくらいならサキが切り刻んでくれるから」とグラ。


「ホド、此処に残ってサキのサポートしてくれるか?」


ホドは黙って頷いた。

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