279 ミノタダンジョン 2

第3階層に進んだ『15の光』は眼前に広がる広大な平原フィールドとその上空を飛び交うハーピーだった。


「空が明るくて助かるわね」


「夜だとハーピーを見つけづらいかもね」


「夜はハーピーは飛ばぬじゃろう、鳥目じゃからな」


「…………」

ホドが剣撃を飛ばして攻撃態勢をとったハーピーを斬り倒す。


ハーピーは魔石に変わってぼとりと地面に落ちてきた。真っ赤な魔石だった。


「皆んな注意して進もう」

此処はまたキルが先頭に立って進み出した。


もしかすると第3階層は昼だけで夜はないかもしれない。


「たぶん向こうにフロアボスがいます」

キルが方向を指し示しながら鎌鼬を飛ばしてハーピーを撃墜する。

その後にクリス、ケーナ、が続く。大人4人は最後尾を固めながらついてきた。


ハーピーは1匹で現れる事もあるが、5〜6匹で群れていることの方が多い。

時には10匹程度の群れもあるのが索敵でわかる。


少し離れたところで10匹位の群れに襲われている4人の冒険者パーティーを見つけた。

しかも今1人死んだようだ。


「向こうで危ないひとがいる!」

キルはそう叫ぶと走り出した。


「キルに続くぞ!」グラが叫んで皆んながキルの後を追った。


キルは近づくハーピーに鎌鼬を飛ばしながら安全な道を確保する。


冒険者が視界に入った時また1人の冒険者が倒れた。


キルは猛烈な勢いでハーピーの群れにつこんで行く。


10匹のハーピーが雷に撃たれて黒焦げになり墜落して魔石に変わった。

キルの魔法による雷撃だ。


キルは冒険者のそばに立ち止まった。

「大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。回復薬も持っている。助けてくれてありがとう。来てくれなかったら全滅していただろう」

装備から見て盾使いと思われる大男がキルを見て驚きと安堵の表情を浮かべる。


もう一人の魔術師と思われる女は座り込んで倒れている二人を見つめていた。

二人はもう死んでいるように見えた。


キルは倒れている二人の側により手を当ててその生死を確認する。

さっき倒れた男の胸に耳をつけてわずかな鼓動を感じ体の傷を治すためにハイヒールを唱えた。


光に包まれながら傷はみるみる塞がっていったが脈は弱い。

「血が失われ過ぎているな。後は運次第だ」


こわばった表情でキルは告げた。


グラ達が追いついてきて冒険者達の周りを囲んだ。


「どうやら全滅は免れたようだね」


「よく走りましたわ。キルさん」


「キル先輩走るの超速いっすね、やっと追いついたっす」


「見つけた時には2人倒れていたのじゃ、よくやったぞ、キル」

ロムがキルを讃えるが、キルの表情は硬いままだ。


「ありがとうございます。おかげで2人は助かりました」

魔術師の女がキルに礼を言う。


盾使いは回復薬を飲んで傷を治している。


「このかたは血を流し過ぎていますね。キルさんの治療は完璧ですが、このままでは危ない。栄養剤だけでも飲めれば多少は違うかもしれません」

クリスが栄養剤を取り出して少しずつ倒れている男の口に入れる。


男はなんとか栄養剤を飲み込んだ。


クリスは残った栄養剤を魔術師の女に渡して立ち上がった。


「しばらくは動かせませんね。どうします?」「うん。うん」


「誰か残って動けるようになるまで守らなくてはいけなさそうだね」

グラが冷静に分析する。


「そこまでしてもらうわけにはいかないよ」

盾使いは言うが自分たちだけ置き去りにされれば結果はわかっている。


「此処は好意に甘えるしか有りません。お願いします。助けてください」

魔術師の女はグラに助けを求めた。


盾使いも黙って頷いた。


「大丈夫、君達を見捨てたりはしないから」グラは笑って救助の約束をした。


「取り敢えず此処で野営の準備をしましょう。その後の事はそれから考えれば?」とサキ。


「そうじゃな」ロムが賛成して野営の準備が始まった。



「私達はAランクパーティー『ガルーダの角』の4人です。今は3人になってしまいましたが……」


「私達は『15の光』と言うルビーノガルツのクランです。今回は10匹のハーピーに襲われるなんて不運でしたね」グラが代表して話をした。


「はい。ですが私達も第3階層を甘く見ていたようです。第2階層に留まっていればこんな事にはならなかったのに……」

盾使いは仲間を失った事でかなり精神的にダメージを残しているようだった。


「それにしてもあの方は、キルさんでしたか?とてもお強いんですね。10匹のハーピーを雷撃魔法1発で倒してしまいましたもの」女魔術師がキルの事を知りたそうに切りだした。


「そうですね、キル君は私達の中でも最強です。たぶんこの国最強かもしれません」

グラは近くにキルがいないのを確かめてからそう答えるのだった。

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