274 ライネル
王都に向かう『15の光』。ダンジョン攻略の前に王都に立ち寄って王都見物をして楽しもうというのがサキの思惑だ。
1日飛び続ければ王都に着く事も可能だろうが、途中の街で一泊しながらゆっくりと王都ベルゲンブルクに向かう。
パリスを飛び越えて王都近郊の街ライネルで宿をとった。
ライネルはパリスとベルゲンブルグの中間にある街で国王の直轄地だ。
王都を守る城郭都市の一つで武器防具の生産が盛んだ。
せっかくなのでライネルの街の武器防具の工房兼店舗を覗いてみる事にした。
「俺、ちょっと武器と防具を見てこようと思うのですが、良いですか?」
「あら、明日王都で見れば良いじゃない?宿でゆっくりしたら?」
「まあ、まあ、工房を見るのも面白いものじゃぞ。サキ」
「あら、ロムも行くの?」
「いや、わしは宿で休ませてもらうがな」
ロムは右手で酒を飲むポーズをする。
「宿屋で夕食を用意してもらうのでそれまでに帰って来てね」
グラがキルに許可を出した。
「ご一緒してもよろしいですか?」
「私も工房を見に行きたいな」「うん。うん」
「工房の見学には興味があるぞ」
クリス、エリス、ユリア、ユミカが同行を名乗り出る。
「別に、構わないよ」
5人は連れだって宿を後にして職人街に向かった。
キルは防具工房でエンシェントドラゴンの鱗を見せる。
「これで防具を作れませんか?」
防具職人が鱗を見て入念に調べて言った。
「これはドラゴンの鱗だろう、しかも並のドラゴンじゃないな。これ程の素材なら加工できれば相当な防御力が出せるだろうが、その分加工が難しい。俺には無理だな」
「作れそうな職人をご存知ありませんか?」
「防具とも言えんが、『ドラゴンナックル』という店がこの先に有る。そこでドラゴン素材のナックルも作った事が有ると自慢してるぜ。ドラゴンの鱗などそう手に入る素材じゃないから経験豊富なはずは無いがな」
「ありがとうございます。行ってみます」
キル達はその防具工房を後にして、『ドラゴンナックル』という店を探した。
店はすぐに見つかった。
「エンシェントドラゴンの鱗か!何枚有る?5枚有ればドラゴンナックルを作れるぞ」
工房主がキルに聞いた。
キルはストレージからエンシェントドラゴンの鱗5枚を取り出した。剥がれた鱗が20〜30枚収納されていたのだ。
「こういう素材の持ち込みは大歓迎だ。そっちのお嬢ちゃんのナックルを作れば良いのかい?拳闘士なんだろう」
「そうだ」キルが答える。
ユミカがキルの腕を掴んで熱い視線を向ける。
「良いので有るか?」
「良いんじゃないか。職人さんも気合が入っているようだしな」
「そりゃあ、気合も入るってもんだぜ。こんな高級素材を加工できることなんて無いからな。それに余った資材で良い加工道具を作れるんでありがたいんだ。加工料は余った素材をもらうって事で良いよな」
「それで良いならありがたい」
「それじゃあ、嬢ちゃんの手型腕型を取らせてもらうぜ。こっちにきな」
ユミカは粘土のようなもので手型腕型をいくつも取られた。キル、クリス、エリス、ユリアはその作業を興味深く見学する。
「さて、それじゃあ7日ほど時間をくれや!そのくらい後になれは出来上がってるから取りに来い。遅くなっても構わないぜ。客に見せて自慢できるからな!」
工房主は上機嫌だ。
「ありがとうございます。キルさん」
ユミカが嬉しそうにキルを見つめた。
「良かったね」「うん。うん」
エリスとユリアも喜んでいる。クリスも笑顔だ。
5人は『ドラゴンナックル』を出て宿に戻る事にした。工房で型取りに時間がかかったのだ。夕食前に戻らなくてはならない。
「ドラゴンナックルをつけたらユミカちゃんのパンチの威力が増しそうだね!」「うん。うん」
「期待が持てますわね」
「楽しみで有るな」
帰り道では5人を狙っているような視線は感じたが、どうやらその辺の子悪党のようで周りを取り囲んで追い剥ぎ的な行為に及ぶまではいかなかったようだ。
やはりキル達から醸し出される雰囲気に警戒したのかもしれない。
キル達は、無事に宿に着く事ができた。仮に襲われても瞬殺する事は簡単だろうが暴力には訴えたくはない。騒ぎが起こらずに済んで良かった。
宿に帰って今日のいきさつを話してユミカにドラゴンナックルを調達した事を伝えた。皆んな戦力アップを歓迎したのだった。
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