269 ドラゴンスレイヤー
ルビーノガルツ冒険者ギルドに立ち寄った『15の光』は、2頭のエンシェントドラゴンを討伐した事を報告してその素材の買い取りをお願いした。
今度のドラゴンの素材はかなりの傷が目立ったがそれが戦いの激しさを物語っていた。
鱗一枚といえども高額で取引されるエンシェントドラゴンの素材だ。傷がついていても高額で引き取られる。いや、傷があるのは当然の事でもある。無傷でエンシェントドラゴンを倒せる者などいないのだから。
ギルドはエンシェントドラゴンの遺体の持ち込みで騒然となった。
誰しもが一度は見て見たいと思うドラゴンの遺体なのだ。
それもエンシェントドラゴンのだ。
前回のレッドドラゴンよりもなお強く見ることなど無いだろうドラゴンなのだ。
「ドラゴンスレイヤー!」
驚きと賞賛の声がギルドに満たされていた。
キル達はさっさとその場から引き上げてクランのホームに戻った。
ホームにはゼペック爺さんとクッキーが待っていた。
「お帰りなさい〜」
クッキーが笑顔で出迎える。
「だいぶ疲れたようじゃのう、大変だったのかえ?」
「はい。まあそこそこ」
キルはゼペック爺さんの心配に頭を掻きながら答えた。
「今回はとても激戦が多かったわ。少しお休みが欲しいわね」
サキが休養宣言をした。
確かに今回は激戦が多かったなと思うキル。
蜘蛛顔の名もなき悪魔も手強かったし、エンシェントドラゴンのつがいも強かったと振り返った。
あとはこの辺のダンジョン最深部にドラゴンがいるかを確認に行くのが残った手掛かりだな。そのあとは離れた場所の調査に移るしかない。
世界に一匹のエンペラードラゴンを探すのは時間と労力がかかりそうだ。
一歩ずつ進んでいくしかないだろう。
キルは色々と考えて決意を固める。今まで作っていない勇者や賢者、聖女のジョブスクロールを作るんだ。
「明日から少しお休みにしましょう!」
キルは皆んなを気遣ってお休みを提唱した。
グラとロムが笑いを堪えている。
サキに引っ張られるキルの様子が面白かったのかもしれない。
だが皆んなも今回はだいぶ疲れているのは事実だし、ここで休みを取るのは間違っていない。
ゼペック爺さんがその様子を見て言った。
「身体の状態を整えるのも大事な仕事じゃぞえ、3日は休養をとりなされ」
キルはゴリアテ達のことを思い出した。
ゴリアテ達は稼いだ後は暫く働かずに遊んでいたな……と。
それがこの世界では普通の事なんだよなあ。
金が有り余っていたら働く必要は無くなるのだから。
むしろキルの方が珍しい。貧乏でその日暮らしだった時の癖が抜けないのだろうか?
働いていないと安心ができない。何かしていると心が安まるのだ。
キルは休むことも学ばなければと思った。
「3日間自由にして身体を休めるようにしようか?」
グラがリーダーシップをとった。
皆んなが笑顔を見せる。誰もが疲れを感じていたようだった。
「じゃあ、美味しい料理を作りますので楽しみにしてくださいね!」
クッキーが腕まくりをして料理を始める。
エリスとユミカが顔を見合わせてクッキーの手伝いに調理場に向った。
「キルさんや、庭の農園に野菜の種を蒔いてみたのじゃ。芽がでて大きくなってきておるのじゃが見てみんかえ?」
「はい。見てみたいです。一緒に行きましょう」
「私も見たいですわ」
3人が庭の農園を見に出かけた。
農園の一画が耕され小さな芽が出ているものや、少し葉の枚数の増えた物も可愛く植っている。
「ホレンゲ草とコレツマ草の種を蒔いてみたのじゃが育つのが楽しみじゃわい。もう少ししたら摘んで食べれるかのう?」
普段は悪徳商人顔のゼペック爺さんだが今は何故か仏様のように目尻をたらしている。
慈愛に満ちた顔?というのだろうか?
植えた種が芽を出して成長するのが楽しみなのだろう。そして育った葉っぱを食べるのが楽しみなのだ。
「上手に育ててますね、ゼペックさん」とクリス。
「ワシとクッキーで育てておるのじゃがのう」
「いつ何を植えたら良いとか、良く知ってましたね?」
キルは疑問に思って聞いてみた。
「農家のジョブスクロール星1を作って身につけたからのう。クッキーも一緒にのう」
「そうですか、それは良かった」
「新鮮な野菜は美味しいですよね」
クリスがにこやかに微笑んだ。可愛いなあと思うキル。
「今から食べるのが楽しみじゃい」ゼペック爺さんの顔がまた悪徳商人の顔に戻っていた。
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