265 揺らぎの先

全員が揺らぎをくぐり抜けて別の場所に移動した。


「なんだ此処は!」


グラが驚いて呟いた。


そこには草一つなく荒れ果てた大地と薄暗い空があった。そして空には血のように赤い月が一つ。


身体中に刺さるように感じる魔物の気配、と重圧。


「何か恐ろしいものの棲家には違いなさそうですね」


「あれは何じゃ!」

ロムが遠くを指差した。


キルが指された先の何かを見る。


「千里眼!」キルがスキルを用いて遠い何かを見つめた。


「あれは………グラシャ=ラボラス……」


キルの呟きを聞いたグラが叫んだ。


「逃げろ!揺らぎをくぐって戻るんだ!」


全員が揺らぎをくぐって元いた場所に戻って来た。そして揺らぎから離れようとする。


「ラボラス様を呼び捨てにするとは無礼な奴らだ!」


声と共に揺らぎの中から恐ろしいオーラを身に纏った異形の怪物が現れた。


人のような姿をしているがその顔は蜘蛛のそれだった。いくつもの目が周囲を見ている。


「お前は何者だ?」

人語を解するその化け物にグラが叫ぶ。


「私はグラシャ=ラボラス様の率いる36の軍団の軍団長の1人だ」


「名前は?」


「名前など無い」


「名のない貴様が俺たちに何のようだ」

グラは剣呑な気配に緊張しながら蜘蛛顔の化け物の相手をする。


「決まっている。ラボラス様を侮辱した貴様らに死の制裁をかしに来たまで」


『15の光』は全員飛び退いて武器を構える。蜘蛛顔がただものでない事はその気配でわかっていた。


「眷属召喚!」

蜘蛛顔の周りに黒い影が広がった。

そしてその影の中から蜘蛛顔の男達が次々と浮き出してきた。その数は100を越えまだまだ増え続ける。

一人一人が並みの実力ではない事がわかる。


男達の体は黒い影でできている。その腕は不気味な黒い触手のようだ。

男達がキル達に攻めかかった。


だがキル達とて神級冒険者だ。むざむざやられるわけがない。


次々に現れる蜘蛛影男達を次々に倒していく。


グラがその剣で切り刻みサキは魔法で蜘蛛影を滅する。

マリカの光魔法は特に有効のようだ。


だが圧倒的に敵の増え方が早過ぎる。


「エクスプロミネンス!」サキが神級爆烈魔法で数を減らす。


「エスプロシオン!」クリスも神級烈風魔法で蜘蛛影を切り刻んだ。


「セイクリッドエクレクス!」マリカの聖なる光が蜘蛛影を消滅させる。


だが次々に湧いて出る蜘蛛影


「キリがないな」蜘蛛影を切り刻みながらグラがキルに目で合図を送った。


眷属をいくら倒していても次々に召喚されてキリが無い。召喚主を倒さなければ終わりが無いに違いない。


グラはキルに蜘蛛顔を倒せと言っているのだ。


キルは蜘蛛影を切り刻みながら蜘蛛顔への道を切り開く。


こいつらはどう見ても光魔法はやや苦手のように感じる。


「神との戦いに備える我が軍に人間如きが太刀打ちできると思うなよ!ハハハハハ!」蜘蛛顔の男が高々と笑った。


「セイクリッドエクレクス!キルも神級光魔法で蜘蛛顔周辺を焼き尽くした。


「グワーー!」蜘蛛顔がダメージを受け身体から煙をだしている。周りの蜘蛛影は光に焼かれて消滅した。


「お前も神級光魔法を使えるのか、だがそのくらいで俺は倒せんぞ!」


蜘蛛顔の足元にまたしても影が覆う。そして蜘蛛影が湧いてきた。


キルは周りの蜘蛛影を切り倒しながら蜘蛛顔に近づいて行った。


「自ら倒されに近づいて来るとは愚かな奴よ!」


「ダークインフェルノ!」


黒き影がキルを覆い尽くしキルの動きを封じてジワジワとダメージを与え続けた。


「サンクチャリーフィールド!」マリカがキルにかかったダークインフェルノを打ち消した。


「助かった!マリカ」

キルは動きを取り戻して蜘蛛顔に斬りつけた。


意表を突かれた蜘蛛顔が大上段から切り下ろされた。


『ガキッツ!』


蜘蛛顔の頭部にキルのミスリルの剣が食い込む。


「はあああーーー!」


キルは食い込んだミスリルの剣に魔力を流し込んだ。

ミスリルの刀身が白く光り輝いた。


蜘蛛顔は右腕で食い込んだ剣を払いのける。だが蜘蛛顔に大きな傷が付き目もいくつか潰れている。


顔を押さえて蜘蛛顔が後ずさった。


「インフェルノスネイクスピア!」


蜘蛛顔が手の平を向けるとそこから黒い5匹の蛇がキルを襲いその蛇が槍へと変化した。


キルはミスリルの剣で斬って躱した。


「アトミックボム!」


クリスが魔法で支援する。


蜘蛛顔の脇腹が爆発で消失した。


エリスもユリアも蜘蛛影を相手に奮闘している。ユミカもだ。


蜘蛛顔の脇腹に影が集まって失われた腹が元に戻っていく。顔の傷にも同様に影が集まっている。


「セイクリッドエクレクス!」キルは集まる影を打ち払おうと再度光魔法で攻撃した。集まった影が光に焼かれて消失し蜘蛛顔の傷の再生が止まった。


「グオーー、ああーーあー!コイツ許せん!」蜘蛛顔がキルを睨みつけた。


その刹那、キルはすかさず蜘蛛顔の頭部に斬りつけていた。

キルを睨んだその顔面に再びキルのミスリルの剣が深々と食い込む。


食い込んだミスリルの剣に渾身の魔力を流しながらキルは剣を押し切った。


蜘蛛顔の体が光を発し蒸発して行く。


「バカな、破れたのか?だが悪魔は滅せられぬ、またいつか復活するから待っていろよ!」


そう言い残して蜘蛛顔が消失した。


「悪魔?と言っていたか」


キルは蜘蛛顔の言葉を確認しながらも残った蜘蛛影の攻撃に移った。


もう蜘蛛影が増えることはない。あとは少しずつでも数を減らして行くだけだ。


「エクスプロミネンス!」、「エスプロシオン!」、「セイクリッドエクレクス!」魔法が飛びかい蜘蛛影が減っていった。そして遂には敵を消滅させたのだった。

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