243 動乱の予感

「ベルゲン王の新王はベルゲンシャインに決まったようですね、ジルベルト」

にこやかな笑顔でゾルタンはジルベルトに話しかけた。


「はい。予定通りに事が運んで良かった」


「そうですね。ガングル(ベルゲンシャイン)が王になれば少しはマシな国になりそうです。」

ゾルタンはふふふと笑った。


「そういえばガングル(ベルゲンシャイン)が王位についた事を祝って大特赦を行なったそうですよ。全ての人間の罪を赦すそうです。つまり緑山泊の人間も罪人ではなくなって、ベルゲン王国の何処を歩いても捕まる事は無くなったという事です」


という事はもうベルゲン王国での罪人は緑山泊にとどまる必要がなくなったという事だった。とは言え幹部達が緑山泊を出て行く事は無かったのだが。


キル達は相変わらずダンジョンでのレベル上げを続けている。

3ヶ月が経ちクリス達も神級冒険者に進化していた。

だがそれでもより強くなるために討伐経験値を積み上げ続けている。


緑山泊と王国の戦いで国が負けたことの影響でベルゲン王国は周囲の国から小規模の攻撃を受ける事が増えてはいた。だがベルゲンシャイン王の軍によって国境は守られていた。王国四天王は健在だったのだ。


とは言えベルゲン王国が今後隣接国によって大規模な侵略戦争を仕掛けられないとは言い切れない状況は続いているという事でもあったのだ。


「どうやらロマリア王国も宗教国家スタインブルクもベルゲン王国を狙っているようですね?」ゾルタンはジルベルトに周辺国の状況をたしかめる。


ジルベルトは眉間に皺を寄せながら憂いの表情を見せた。

「確かにそういう状況ではある様だ。いずれは攻め寄せてくるかもしれないな」


「全く争いの種というものは尽きない物なのですね」


「本当にそうだ、近々ロマリア王国はベルゲン王国に宣戦布告するだろうな」


「スタインブルクはいかがですか?」


「同時に仕掛けてくる可能性が高いかな………」

ジルベルトは唇を噛む。


「なるほど、そうなると…」

ゾルタンは遠くを見つめる。


「クリープ、ロマリア王国の動静を調べて動きがあれば知らせてくれ」

ジルベルトがクリープに指示を出した。


「承知!」

クリープが姿を消す。


「何事もなければ良いのですがねえ…人の欲というものは……」

ゾルタンは悲しそうに目を閉じた。




    *  *  *



ベルゲン王国王城 王の間


ボルターク将軍が王の前で跪いた。

「王よ!隣国ロマリアに不穏な動きがあるとの知らせ」


ベルゲンシャインは表情を崩さない。

「それでこちらの対応はどうなっている?」


「ベルクレスト卿に対応を相談しております。王国軍の出陣準備もすすめております」


「緑山泊のゾルタン様に手紙を届ける。ロマリアの事よろしく頼む……とな」

ベルゲンシャインが命じた。


「それだけでよろしいのですか?」


「ああ、ゾルタン様とジルベルト様の予想されていた通りの事、約束はできている。ロマリア軍は緑山泊が近い故任せておけとな。我らはスタインブルクの侵攻に対応せねばならん。その戦力を温存しておくべきだとも申されていたぞ」


「さようなことまで!」


「スタインブルクの動向からも目を離すな」


「ハ!」


「ナックル、スリザリンはスタインブルクの侵攻に備えて軍の演習を行え。いつでも出陣できるようにな」


「「ハ!」」


「スタインブルクと領地が接するマークキス子爵ノンシルクには警戒を怠るなと伝えよ!もしもの時はナックル、スリザリン両軍と共に戦うことになろう」


「ウェンリー、空軍の整備はどうなっているか?」


「は!緑山泊のキル殿の協力で、300の弓兵に飛行能力を身につけ訓練に励んでおります。今後はスリザリン様配下の魔術師部隊に飛行能力を持たせる事を検討中でございます。」


「スリザリン、整備を急げ」


「ハ!」


「空軍は今までの戦の概念を変える。最優先で予算を回し、訓練に取り組む様に!」


「ハ!」


ベルゲンシャインは次々に指示を出した。

部下達はベルゲンシャインのリーダーシップと毅然とした態度に信頼を寄せるのだった。

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