240 ベルゲンダイン親征 1
貴族連合軍幕舎
「おお!よく戻られた。ボルターク将軍にウェンリー将軍。心配しておりましたぞ!」
ボルタークとウェンリーは生き残った騎士や剣士を探し出し50人ほどの軍をつくって貴族連合軍に合流していた。
「完璧なまでに敗れたました。恥ずかしい限りです」
とボルターク。
「将軍がいれば千人の兵に勝ります。お二人ともよくご無事で」
ベルクレストが2人の帰還を喜んだ。
他の貴族達も皆2人に無事を喜んでいる。
心強い味方が帰ってきたのだから当たり前だ。
ベルゲンケルトとベルクレストにはベルゲンシャインが生きていて緑山泊に保護されていることがジルベルトの密書によって伝わっていた。
そしてルビーノガルツ侯爵にもクリスの密書が届いている。
彼等は戦力的にも心情的にも緑山泊軍と積極的に戦いたいという気持ちにはなれなくなっていた。
ベルゲンケルトがボルターク達に現状を伝える。
「王に援軍を要請した。なのでしばらくすれば援軍がやってくるはずだ。我々はそれまでここで守りを固め援軍の到着を待ってから攻めに転じようと思っている。」
「なかなか良い作戦だと思います。ハッキリ言って彼等は強いです。我々だけで戦っても討伐するのは無理でしょう」ボルタークはベルゲンケルトが援軍を呼んだ事を良い判断だとほめる。
「戦って敗れてしまうより、この地にとどまってこちらに警戒させておくことのほうが良いと思う。そうする事で援軍が到着した時に敵を挟み撃ちにできる。
援軍が来た時に我が軍が全滅していたら挟み討ちにはできないのだから」
ベルゲンケルトが自説を述べる。
「私もそう思う。なにしろ将軍達の軍1万ですら全滅させられたのだからね」
とベルクレスト。
貴族連合軍は紅月山の西で緑山泊軍に睨みを効かせる方針を取るのだった。
これはジルベルトのシナリオどうりと言って良かった。
* * *
王国軍が援軍として出陣したのはベルゲンダインの指示後3日目のことだった。
民兵や冒険者を集める事なく常備軍だけでの出兵で総兵数3万は王国直轄軍全軍だ。
通常これに民兵や冒険者が兵として加わるのだが、今回は兵の質と迅速な出陣を優先したのでこの兵数となった。
民兵と冒険者を集めればおそらく10万以上兵数は増えていたはずだ。
だがそれには費用と時間がかかるのだ。
今は一刻も早く援軍として駆けつける必要がある。
そのため行軍の速度も通常よりも早めの行軍となった。
第1軍が拳闘王ナックル率いる1万、第2軍が王級魔術師のスリザリン率いる1万、第3軍が国王ベルゲンダイン自ら率いる1万だ。
ベルゲンダインの横には近衛隊の特級騎士ピカードが控えている。
「ピカードよ、緑山泊軍はどのくらい残っているのだろうなあ?
元々が4500と聞くが、ウェンリーとボルタークの率いる1万と戦ったということだから半数にはなっているのかな?」
「わかりませんが、多少の戦死者は出ているはずですし、ウェンリー、ボルタークは一騎当千、半数になっている可能性は大きいでしょう」ピカードが追従する。
「それにもかかわらず応援を求めてくるとはどういうことなのか?しかも王の親征を求めてくるとはな!」
「よほど強いものが残っているのでしょうね。」
「剣神と騎神がいて敵わない相手がいるというのか?」
ベルゲンダインがそれはないだろうと鼻で笑った。
「剣神クラスが複数相手……とかなら、あるいは」
ピカードの話を聞いて顎に手を当て真剣な顔になるベルゲンダイン。
「なるほどな。ありえない話ではないのか?まさかな」
あり得る話と思いながらもありえない………と結論づけるベルゲンダインだった。
先陣の早い移動速度のおかげで王国軍3万は長蛇の列になりながら行軍が進んでいった。
最後尾の第3軍中央付近にベルゲンダイン達がおり第3軍自体は通常の速度で進軍を続けている。
先鋒の第1軍との距離は開く一方だ。
第1軍は黄燐山の横の谷間を抜けて紅月山の方向を目指している。
黄燐山の砦は破壊されて無惨な姿をさらしている。
このあたりは山と山に挟まれた道が長く続いている。
そこを抜けて開けたところに出れば後は北に広がる平原、その先に紅月山が有るのだ。
第1軍は黄燐山の横を西に進みその先の平原を目指している。
第2軍、第3軍もそれに続く。長蛇の列は長く長く続いていた。
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