239 知恵の泉ジルベルト

緑光山軍幕舎


ベルゲンシャイン(ガングル)の両脇にはボルタークとウェンリーが控えている。

ウェンリーもボルタークの説得でベルゲンシャインの配下になっていた。


ゾルタンがジルベルトを見て発言を促した。


ジルベルトが頷いて話し出す。

「さて、貴族達は紅月山の西で合流してその数1万弱。中心人物は2人の公爵ベルゲンケルトとベルクレストだ。」


ジルベルトがいならぶ幹部達を見回した。

「それに対して我が軍は3000だが質的には相手を大きく凌駕している。戦えば必ず勝てるがただ戦うのでは芸がないというものだ」


3000の緑光山軍が1万の貴族連合軍に余裕で勝つと言う。

一見おかしな事を言っているようだが誰もが当たり前だという表情だ。


「そこで、我々は軍をここで留めて彼等の帰路を塞ぎながら調略をかける。こちらにはベルゲンシャイン陛下がいらっしゃる。」


「「陛下!陛下?」」

幹部の口から陛下の声が漏れた。


「そう、ベルゲンシャイン陛下………ガングルにはベルゲン王国の次期王になってもらうのだからな!」


幹部達にざわめきが起きた。


「ボルタークとウェンリーには散らばっている敗残兵を集めてベルゲンシャイン陛下の軍を組織してもらいたい。

民兵や冒険者は集めるな、元からの君達の部下だけを集めて欲しい。数は少なくても良いのだ。

そしてガングル!君には叔父にあたるベルクレスト卿と大叔父のベルゲンケルト卿の説得に当たってもらおう。

使いは私が出す。君は旗頭になってくれれば良いのだ」

ジルベルトの口の端がわずかに上がる。


「さて、あとはボルタークとウェンリーの名で援軍の要請を行う、王ベルゲンダインの親征を求めてね。」


「なるほどな、出てきたベルゲンダインを討ち取ってガングルを王に据えるというわけか」グラが呟いた。


ジルベルトがグラを見てにやりとわらった。


そしてジルベルトはクリスを見る。

「クリス君はルビーノガルツ侯爵の娘さんだったね。お父上には我々と戦わず、ベルゲンシャイン陛下に協力するように手紙でも送っておいてくれ。それで十分効果がある。お父上とは戦いたくはないだろうからね」


「ハイ」

クリスが小さな声で頷く。


ゾルタンがにこやかにボルタークとウェンリーを見つめる。

「悪政の根をたち、善政の種を蒔きましょう。2人の協力には感謝いたしますよ」


「では我々は生き残った部下を集めるといたします」

2人は幕舎を後にするのだった。




    *  *  *



「なんと!あの2将軍が敗れたと!」


王ベルゲンダインの御前で驚きの声をあげているのは宰相ファーレンだ。


王の玉座でベルゲンダインが顔を顰めた。


「まったく剣神、騎神の質も堕ちたものよな!四天王が聞いて呆れるわ!2万の兵で4500の緑山泊軍に敗れただと!」

ベルゲンダインは2人の四天王をこき下ろす。


「ベルゲンケルト卿によれば王国直轄軍は敗れボルターク様、ウェンリー様行方不明との事です。ベルゲンケルト卿は早急な援軍を求めております。」

宰相ファーレンがベルゲンケルトの手紙を読んでから王に告げた。


「行方不明とは思った以上に被害は甚大なのかもしれぬな。援軍が必要というのは本当かも知れぬ」王ベルゲンダインの顔色が変わった。


そこに早馬によって手紙が届く。

宰相ファーレンが目を通し読み上げる。

「ボルターク様からです。王国直轄軍は全滅し、ウェンリー将軍とわずかな兵と共に逃げ延びたそうに御座います。この上は援軍と再戦の機会をとの事。王の親征があれば地に落ちた士気も上がるだろうとあります」


「ボルタークとウェンリーは生き延びておったか。このままでは緑山泊の名を上げるだけだ。援軍を派遣しよう。拳闘王ナックルと王級魔術師のスリザリンは戻っておるか?」


「昨日視察先より戻っているはず。援軍には参加可能かと」


「よし、この際全軍を上げて緑山泊を滅ぼす。剣聖の余も出るぞ!支度をせい!」


ベルゲンダインは聖級の剣士でその才能を鼻にかけていた。

しかし神級、王級には及ばないことがコンプレックスでもある。

ここで神級2人の敗れた相手に勝利することは彼にとって非常に自分のプライドを満足させられる事でもあった。


「王自ら出向くような相手では御座いませんぞ!」

宰相ファーレンが止める。


「良い!ボルタークも言っておろう。王の親征が兵の士気を上げると!我自らが緑山泊の罪人共を成敗してくれるわ!早く準備にかかれ!」


「ハハ!」

宰相ファーレンは全軍出陣の準備を始めるのだった。

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