234 対緑山泊討伐軍 4

朝焼けの中13人は飛びたった。


この奇襲がこの戦いの中で大きな意味を持つ事は全員が理解している。


「敵の騎兵隊2000を壊滅させて、ついでに歩兵隊も爆撃しておきますか?」


キルがグラに聞いた。


「魔力量に余裕があれば敵を減らしておくことに問題はないだろうけれどね、なんならキル君だけでも爆撃し続けるかい?」


13人の爆撃と言っても強力な爆撃が行えるのは広い範囲攻撃が行えるキル、クリス、ケーナ、マリカ、サキの5人だ。


残りの8人は比較的狭い範囲の剣撃を飛ばす形になる。

と言っても一度に4〜5人には攻撃が及ぶのだが。


数キロ先の王国直轄軍までそう時間はかからなかった。まずは高高度から5人が馬を狙って範囲攻撃を始めた。


数万本の矢が降り注ぎ、大きな爆発音と共にキノコ雲が上がる。


眼下では大混乱が始まっていた。


逃げ惑う人と馬、キル達5人の高高度爆撃は続く。


キル達5人の高高度爆撃は騎馬隊の駐屯地から歩兵の駐屯地方向に移行していく。


グラ達は逃げ惑う騎馬隊の兵達に上空から剣撃を飛ばす。

高高度と高度からの2高度攻撃だ。


グラ達は逃げ惑う人と馬、特に馬は見逃さないで剣撃を飛ばした。

敵の騎馬隊の機能を止めることが第一の目的だからだ。


時々グラ達に剣撃を飛ばしてくる者もいるが無視して次々に移動しながら攻撃を続ける。時に剣撃を撃ち返す。


キル達5人は騎馬隊2000からその他の歩兵の攻撃に移っていた。歩兵のテントにキノコ雲が上がる。逃げ惑う兵達に数万の矢が降り注ぐ。


高高度からの爆撃に対抗する手段は何も無い。

一方的な殺戮だった。


2時間ほどの爆撃の後、軍は四散し陣地には穴があき、火と煙に包まれていた。

逃げ延びた人間はかなりの数に登っているだろうが陣地は壊滅と言って良かった。


キル達はグラ達と合流して奇襲を終了し飛び去ったのだった。




   *  *  *



ベルゲンケルトやルビーノガルツ卿達の別働隊5000 の幕舎は立ち上るキノコ雲を見て騒然としていた。行軍を始める時間になっていたがこの状況をどう判断するかである。


「なんだ、さっきの爆発音は、あの立ち上るキノコ雲は?」

ベルゲンケルトが立ち上るキノコ雲を見て言った。


「あれは王国直轄軍のあたりでしょうか?」ルビーノガルツ侯爵クリーブランドが眉を顰める。


「ただならぬ事態が起きているようです。斥候に調べさせます。」


「うむ。頼むぞクリーブランド卿。我が軍は予定通り敵の後方に急ぐぞ!」


「は!」


ベルゲンケルトの判断で別働隊5000は計画通りに緑光山軍の後方に向けて予定通り移動を開始したのだった。


別働隊にとって王国直轄軍と離れていたために奇襲を受けずに済んだ事は幸運だったといわざるを得ない。


もし王国直轄軍の隣にいたら爆撃されていたに違いないのだから。




    *  *  *


「ひどいやられようだな……」

ボルタークが目の前に広がる惨状を見つめながら呟いた。


「軍の再編を急げ、負傷者の治療も忘れるな!」

あちこちで慌ただしく兵士達が動き回っている。


負傷者は地面にシートを引いて横たわっている。

おびただしい数で一面負傷者だらけだ。



ウェンリーがやってきて信じられないと言いたそうな顔をしていた。

「騎馬隊2000はほぼ壊滅だ。逃げた馬を集めてはいるが200集まれば上出来だろう。

奇襲があるかもと言われていたのに情けない。作戦を全面的に見直すことになりそうだな」


「その通りだ、ウェンリー。騎兵隊はそこまでやられたか、まだ歩兵隊の方がマシのようだ。奴らの狙いは騎馬隊だったようだな。歩兵隊はついでに攻撃していったようだ。それでもこの大損害だ。あいつら何者だ?」


「それにしても空軍とは恐れ入りました。王国にも空軍を作らなくてはいけませんね」

ウェンリーは空軍の圧倒的な強さにその必要性を認識していた。


「確かにそうだが今はその話をしている時ではないぞ。早く体制を整えないとな。やられたとは言え無事な者も多いはず。軍の再編を急いでくれ!」


ボルタークの頑張りに反し、王国直轄軍の再編には半日を要した。

騎兵隊200、歩兵隊6500という状態だった。戦いに加われそうもない負傷兵約2000が後方に送られた。


それでもまだ緑光山の兵力を数の上では上回っていた。

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