230 奪還作戦

王都ベルゲンベルグ近郊の緑山泊秘密のアジト。


キル、ジルベルト、ウェンツ、ヤンゴン、トクダゼ三兄弟が秘密のアジトについたのは3日前、彼らはクリープの連絡を待っていた。


「来たか!」ヤンゴンがクリープの到着に気づく。


スーと部屋の中に姿を現すクリープ。


「どうだ、わかったかい?」

ジルベルトがクリープに声をかけた。


キルもクリープの答えを待っている。

キルの視線を受けてクリープが優しく笑った。

「キル君のお母様の居場所がわかりました。」


小さくガッツポーズをするキル。

「何処ですか?」


「王城の城壁内に小さな家を与えられてそこに住んでいるようですが周りにたくさんの騎士の住居がありおそらく監視の命令が出されていると思われます。」


「王城の城壁内となるとまず城壁内に入るためにどうするかという事を考えないといけないな。さてさてどうしたものかな?」ジルベルトは腕を組んで考え込んだ。


「場所さえわかれば俺が連れ出しますよ。俺、空を飛べば城壁は関係ないですから」


「確かにそうだがキル君1人で大丈夫……のようだね」

ジルベルトは初めは無理と思っていたようだが、シミュレーションによって余裕で大丈夫な事がわかったらしい。


「ただしお母様を連れ出す時は眠らせて連れてきてください。説明は安全なところに連れてきてからでないと時間がかかって危険ですからね」


「わかりましたジルベルト様、確かに事情を話すのには時間がかかりますし、王城内に残ると言って駄々を捏ねられるかもしれませんからね」


ジルベルトが頷いた。


「遠方から視覚強化でお母様を確認しておいたほうが救出時にスムーズに事が運びますよ」


「下見ですね」


「お母様はここで暮らしておいでです。」クリープが地図を使って場所を教える。


「では、ちょっと下見に行ってきます」


キルは下見をするためにアジトから王城に向かって空を飛んだ。

視覚強化のスキルを使いなおかつ千里眼というスキルを使って遠くのものを拡大して眺める。


王城城壁内の母親の家を探すと家の庭で洗濯物を干す母親の姿を見つけた。

父親の姿は見当たらない。1人で暮らしているのだろうか?


母の家の周りの家をチェックすると両隣の家にはベテラン騎士夫婦が住んでいるらしくかなりの強者の風格を漂わせる男達を見る事ができた。


あの2人が監視役だな……かなりの討伐経験値を持った人達のようだ、母とも仲良くやっているようだしできれば傷つけたくはないな。


奪還は真夜中に決行した方が良いかもしれない……


一旦アジトに戻り奪還計画を練りなおす。




ジルベルトが当初考えていた計画では王城の城門付近で騒ぎを起こし騎士団達を集めている隙にキルが忍び込んで母親を連れ出し空を飛んで逃げるというものだった。


だが母親の家のそばの2人は城門付近で騒ぎが起きてもそこに駆けつける人員ではなさそうだ。それに2人だけならキル1人でどうとでもできる。


真夜中に2人に気付かれないようにキル1人で母親を連れ出してしまうのが1番良い方法ではないかということになった。人数が多ければ多いほど目立って築かれるからだ。


作戦決行日の深夜2時、キルは寝静まる王城に降り立った。

母の家に入るために開錠スキルでドアを開ける。


突然周りに5人のアサシンが現れた。

キルも気づかないように気配を消していたとは驚きだ。


「その家に何ようだ……お前、キルだな。」

5人のアサシンの1人が低い声で続ける。

「黒蜘蛛党7人衆の仇はとらせてもらおう。王にはすまないが、一族の怨みの方が重いのでな」


突然の攻撃に戸惑いながらも5人の剣撃をしっかり躱わすキル、できるだけ静かに5人を倒さねば周りの騎士達がおきてくる。


キルは乱舞水流剣を使い腕利5人の黒蜘蛛党の間を通り抜けながら斬り殺す。さすがは神級剣士だ。バタリ、5人の男が一度にくずれおちた。


5人の死体はそのままに扉から家に入り寝ている母親を担ぎ出す。

目が覚めそうになる母親にスリープをかけてしっかり眠らせた。


家から出ても外には敵はいなかった。隣の騎士達は気づかずに眠っているのだ。


胸を撫で下ろすキル。できれば彼らを斬りたくはなかったのだ。


キルは母親を抱えて空を飛んだ。

眼下の王城は何事もなかったように静かだ。


ベルゲンブルグの街を飛び越え秘密のアジトに到着する。

あとは母親を説得して緑山泊に住んでもらうだけだ。




キルは母親を救出して以来ダンジョンにこもってレベル上げをしていた。

『15の光』の13人は以前のようにレベル上げをしている。

そして全員が神級を目指している。(キルはそれ以上)

クッキーとゼペックさんは緑山泊でお留守番だ。


母親は初めこそ怯えていたが今ではもう緑山泊に馴染んでいる。


冬が終わり次の春がやって来ていた。

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