229 手紙
「キル君に手紙だそうだよ」
幹部達の前でソンタクに呼び止められるキルだった。
ゾルタンが手紙をキルに差し出した。
「ありがとうございます」
キルは手紙を受け取って目を通した。
キルは手紙を見るなり頭をひねった。
「うーむ、これはなんなのかな?」
それはキルの母親からの手紙だった。
キルは母から手紙を受け取るのは初めてだ。
「良かったら、読んでくれるかい?」
ソンタクが言った。
その手紙が何を意味しているのか、一緒に考えようというのだ。
「はい」
キルは読み始める。
「キル、元気にしているかい?母さんは元気にしているよ。今はベルゲンの王様にとても良くしてもらっているんだ。小さいながらも綺麗な家を頂いて食べるに困らないお金も頂いている。ベルゲンの王様は本当に良い人だよ。王様はキルに助けてもらいたい事があるそうだ。どうか母さんに会いに来ておくれ。愛するキルへ。」
キルは手紙を読み終えて顔を上げた。
ジルベルトが笑いを堪えている。
「見え透いた手を使う」
キルは何が起きているのかよく分からずに困惑していた。
「どういう事でしょう?」
「君のお母様は今のところ王の手元で良い暮らしはできているようだね、今のところはね!」とジルベルト。
「人質みたいなものでしょうか?」ゾルタンがジルベルトを見る。
ジルベルトが頷いた。
キルには2人のやり取りが何を言っているのかまだ分からなかった。
グラがキルの耳元で囁く。
「君が行ってスクロールを作らないとお母様がどうなるかわからないという事だろう、もちろん行ったらずっと奴隷のようにスクロールを作らされ続けるんじゃないかな」
サキも呟く。
「えぐいわね、あまり長い間キルが行かなければ王はこの作戦を諦めてお母様を処分しかねない」
そういうことか……キルはやっと事態の全貌を把握した。
人質……確かに人質を取られたんだ。
キルが緑山泊にいる事がわかってこの作戦を仕掛けてきたに違いない。
「どうすれば良いのでしょう?」
キルはグラを見てそしてゾルタンに目線を移した。
「父さんはどうなっているのでしょうか?」
もう一つの疑問、父さんのことが書かれていないのはどういう事なのかを口にする。
ゾルタンが言いづらそうに答える。
「お父上はおそらくお亡くなりになっている可能性が高いのではありませんか?生きていれば『父さんと母さん』と書いてくるはずですからね」
キルは肩を落として俯いた。
「とにかくキル君のお母様をなんとかしなければなりませんね」
ゾルタンが皆んなを見回した。
緑山泊の皆んなが頷いた。
「まずは現状の把握をしなければなりません。お母様がどこでどのような状態で生活しているのかを調べましょう。クリープ!頼んで良いか?」
ジルベルトがクリープを見る。
「お任せを!」
クリープはそう言うと姿を消した。
調査に向かったのだ。
「基本的にやることはお母様の奪還です。キル君はそれで良いですか?」
ジルベルトがキルを見つめた。
キルは黙って考え込んだ。
「俺が……王国に出頭すれば平穏に事が済むのでしょうか?」
「悪いケースを想定すると、お母様は用済みになった時に処分されると言う事になるでしょうね。勿論平穏に済むこともあるでしょうが」
ジルベルトは顎を手で触りながら答えた。
「で、シミュレーションではどうなのですか?」とゾルタン。
「悪い方です。」
「まあ、あの王ではそうだろうな。」バックドカンが納得する。
彼は元ベルゲン王国軍軍人だ。
「奪還作戦で決まりだな!」
ドラゴンロードがキルを見た。
「そのようですね……わかりました。それでいきましょう。お願いします」
キルが頭を下げた。
「作戦は少数精鋭で気づかれないように入り込んで助けてくるのが基本でしょう。
キル君は決まりとして後誰についていってもらおうかな?」
ドラゴンロードが手を上げる「俺にやらせてくれ」
「お前はダメだな、騒ぎが大きくなる。気づかれずに入り込むんだぞ、お前には向かんよ」ジルベルトがダメだと言った。
「まずは王都ベルゲンベルグ近郊の秘密のアジトに移動してクリープの連絡を待とう。そうだなこの作戦に参加してもらうのは俺とウェンツ、ヤンゴン、トクダゼ三兄弟」
ジルベルトの人選にウェンツ、ヤンゴン、トクダゼ三兄弟が頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます