228 グラシャ=ラボラス

緑山泊に到着した『15の光』、早速事の顛末を報告する。


「ただいま帰りました。」


本殿前で出迎える幹部達。


「ご苦労でしたね。皆無事のようで何よりです」ゾルタンが労いの言葉をかけた。


「また魔石柱を発見して今度は完全な形で回収してきました。これがヌーヌーをミノタロスに進化させている原因のようなのです。キル君出して」

グラの指示に従いキルがストレージから魔石柱を庭に出した。


「凄いでかい魔石だな、確かに魔石柱と呼ぶにふさわしい。」ドラゴンロードが感心しながら魔石柱を撫でまわす。


「これは凄いね!」とピンチュン。


ソンタクが腕を胸で組んで眉間に皺を寄せた。

「こんなものが地中に埋められていたのか?人間業とは思えないな、本当に」


「ほんの一瞬ですがおぞましい気配を放つ奴を見たんです。見えたのはキル君だけなんですけれどもその気配に震えが来ました。キル君、見た目姿を説明してくれないか」


「はい、グラさん。」

キルは返事をしてから説明を始めた。


「ほんの一瞬で消えてしまったので見逃したところも多いと思いますが奴は犬のような頭と体を持っていて背中に翼があってそれで飛んでいたようでした。背中に誰かを乗せていたかと思うのですが消えてしまって見えませんでした」


ソンタクの顔が青ざめる。


「なんだかわかったのか?ソンタク」ジルベルトが聞いた。


「おそらくそれは悪魔グラシャ=ラボラスだ。36の軍団を指揮する序列25番の大総裁、ネビロスの支配下でネビロスがときどき乗用に使う従僕だとグリモアに記されていた。ネビロスはアスタロトに仕える6柱のうちの1柱で、魔王軍の少将にして総監督官だ。背中にいたというのがネビロスだろう」

ソンタクが身を震わせる。


「そいつがこの魔石柱を?」


「おそらくそうだよ、ジルベルト」とソンタク。


「大丈夫、これはグラシャ=ラボラスにとっては遊びのようなもの。ちょっとした気まぐれ程度のものでしょう。飽きればおさまるに違いありません。嵐はやり過ごすしかありませんよ」不死身のゾルタンは暗い顔で言った。


「トリンドルの街はミノタロスによって壊滅したようです。住民が逃げられていれば良いのですけれども」グラは追加で報告する。


「そうですか……残念ですね」


ゾルタンは仕方がない事と割り切っているようだった。


「ゾルタン様は悪魔のことを何かご存知なのですか?」キルが疑問に思い続けていたことを口のする。何故これらの事が悪魔にとってあそびに過ぎないとか言えるのだろう?


ゾルタンが苦笑いをしながら言った。

「私の呪いが悪魔によってかけられたからです。その時彼らと話をしてわかった……彼らにとって人間界などどうでも良い、ただの余興なのだと」


「そうなのですか」


「彼らは悠久の時を生き滅んでもいずれは復活する。地獄の底で長い間生き続けている。そして全ての事に飽き飽きしているのです。だから時々イタズラをする。ただそれだけです」


まるで悪魔達も不死の呪いにかかっているかのような話だとキルは思った。


「でもイタズラで殺されては敵いませんね。」


「王族や貴族、あるいは犯罪者の中には気まぐれで人を平気で殺したりする奴もいるじゃあないですか、ハーメルンのようにね。同じですよ」


要するに悪い奴だという事だな……とわかったキルだった。


「グラシャ=ラボラスという悪魔は殺す事が好きでそれを楽しむ奴です。あいつはなんとか滅しておきたいですね。復活まで被害が出なくて済む。」

ゾルタンがボソリと言った。


しかしあの悪魔から感じた強さは尋常なものではなかった。

今のままではとても敵わないと思うキルだった。


「1人では勝てなくても大勢で戦えばグラシャ=ラボラスを倒せるかもしれませんよね!」クリスの声が響いた。


正義感の強いクリスは諦め顔のキル達を見て思わず声を上げてしまったのだ。

みんなの視線がクリスに集まる。クリスは赤い顔で口を手で覆った。


「そうだね、みんなで強くなろう。」キルがクリスの意見を応援した。


少女達が頷く。


「みんなでダンジョンで修行するっす。」


「ダンジョンならこの近くにあるのは玉露山ダンジョンだな、Aランクのダンジョンだぜ」というのはドラゴンロードだった。


「お前も一緒に強くなってきたらどうだ!」

とゼットがドラゴンロードを揶揄う。


「こんなに強い俺様がもっと強くなったら敵なしだな。ガハハハハ!」


「バーカ!上級のお前が聖級のお嬢ちゃん達についていけるかよ!」


「ちげーねーや!」



それからキル達『15の光』は玉露山ダンジョンでレベル上げをするようになった。

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