210 ユフリン

「ねえ、今日はどうするの。お休みでいいなら行ってみたいところがあるのよ」

サラが上機嫌でグラに聞いた。


「別にいいんじゃないかな。もう指名依頼から逃げ回ることもなさそうだからね」


「で、どこにいきたいんじゃ?サキは?」

とロムが聞く。


「ジャバク山から見た景色がすごく綺麗なんだって。」


「フライで飛んでる時の景色の方が綺麗やもしれんぞ。その手の景色は見飽きたじゃろ」


ロムの指摘にサキが困惑の表情。

「言われてみれば確かにそうね」


パチリと手を叩いてサキが次の案を出した。

「アルダン公園っていい雰囲気らしいって聞いたわよ。」


「ははは!周りがカップルだらけの所にワザワザ行きたいのか?サキ」

とグラ。


「ウグ!」

サキもそれは嫌な様だ。


「どうせならアルバスにこだわらずビマ湖のほとり水の都ビーナとか行ってみたくないか?」グラがアルバスを出てビーナに移動する事を提案した。


「悪くはないけど、ビーナに行くなら夏がいいわね〜、今は秋だしもうすぐ冬が来てしまうもの」サキは季節が合わないと主張した。


「ならフダク山の近くの温泉都市アダクサなんてのはどうじゃ!」

ロムの提案にサキも乗り気だ。もうアルバスを去ることは決定事項のようだ。


「温泉都市アダクサね、温泉は良いわよね〜」


「温泉ならこの近くにも…確かユフリンにもあった様な?」


「確かにユフリンも良い温泉地じゃったな」

グラの話をロムも認めた。


「じゃあユフリンに行きましょうよ。」

サキはもうノリノリで温泉地推しだ。


「ねえみんな!温泉行こうよ!」

サキが少女達に声をかけると一気に流れはユフリン行きに傾いた。

少女達は顔を見合わせて喜んでいる。


「キル君も温泉好きだよね!」


「はい。だ…大好きです。」


サキさんの意見に反対する人はいない。


馬車に乗ってユフリンに向けて出発だ。



馬車は北西向かって半日ほどでユフリンに着いた。

途中の森でビックブラックベアが襲って来たが、ユリアが馬車から飛び出して退治してくれた。ストレージに収めておいて後でギルドで売る予定だ。


15人が泊まれる温泉宿を探して宿泊する。

5人部屋3つでいつもの様に男の部屋を皆んなが集まる時に使う部屋にする。


ユフリンはニコゴンダンジョンにも馬車で1日で行ける距離にある。

フライで飛んで行けばもっと早い。

ユフリンをベースにニコゴンダンジョンでレベル上げをすることも可能ということだ。


部屋が決まると早速女子達は温泉に向かった。キル達5人も同じだ。


この世界は一般に風呂が家にあるのは貴族や王族或いは大商人くらいのものだ。

普通の人間は濡れタオルで体を拭くのが習慣だ。


キル達にはクリーンの魔法があるので全員タオルで拭く代わりにクリーンの魔法を使っている。


街には銭湯の様な大衆浴場も存在するが、お湯が汚く温かくないので温泉の様にふんだんにお湯を使っていて、綺麗であたかい風呂はとても貴重な場所だ。


湯船にゆっくり浸かって温まる事ができる場所は庶民には温泉くらいしかない。


男湯と女湯は言うまでもなくしっかり壁でしきられている。

屋根は一部空を見れる様に開いているが湯船自体に雨が入ることがない程度には覆ってあった。


女子達はキャッキャキャッキャしながら温泉を楽しんだ。

大きいの大きくないの、ツルツルだのスベスベだの言い合ったり、触り合った、褒めあったり、謙遜したり、隠したり、暴かれたりと年頃の女の子のすることは微笑ましい。



「アーー!いい湯だ。」

「フーーーー」

「生き返るのう。」


男達はお湯に浸かって恍惚とした表情を浮かべる。

身体に暖かいお湯が染み込んでくる様な感覚は銭湯では味わえないのだ。


壁に仕切られて外の景色は見えないが空は遠くまで見てとれた。


昼間の日差しの暖かさの割に秋の空気は暑くはない。いや、やや冷たい。

それがお湯で熱くなりすぎた体を冷やしてくれるのがまた心地が良いのだった。


「命の洗濯とはよく言ったものですね。」


「キル君はおかしな言葉を知っているんだね。」

キルの言葉をグラが揶揄する。


「あーーー、いい湯だ。酒を飲みながらならなお良かったのじゃがな」

ロムは頭の上にタオルをおいて上機嫌だ。


「キルさんや、風呂から出たら一緒にこの街の散策に行かんかね?」

ゼペック爺さんがキルを誘う。


「良いですね。お供します」

キルはゼペック爺さんの護衛も兼ねてゼペックの提案を受け入れた。


ユフリンは温泉を売りにした観光地だ。

観光客用の施設やお店が集まった一画がありそこを見てまわるのも旅の楽しみの定番だ。温泉饅頭なる甘ーいお菓子が温泉地のここかしこに売っている。名物だった。


温泉から出た皆んなは温泉街を練り歩いて楽しむのだった。

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