207 教皇ルミナス 1
キルたち5人が連れてこられたのはすぐ近くのサナリア教の教会だった。
サナリア教は太陽神サナリアを崇める一信教でこの地域では最も信じられている宗教、いや、ほとんどの人が信じている宗教だ。
勿論、宗教国家スタインブルクで信じられているのもサナリア教だ。
「神父様、お召しの方をお連れしました」
初めから俺達を狙って声をかけてきたということらしい。
「素晴らしい、神の御覚えもよろしかろう」
神父と呼ばれた男が信者達を褒めた。
「教皇様、お召しのもの達をお連れしました。どうぞお話しを」
神父と呼ばれた男が奥に控えている男達の方を向いて声をかけた。
神父に教皇と呼ばれた男が近づいてくる。
教皇の他に部下の様な人間が後ろに6人控えている。
おそらくこの教会の人間は神父までで教皇と呼ばれた男とその部下合わせて7人は本部の方からやってきていると推測した。
鑑定すると教皇は上級聖職師、残りの6人は上級聖騎士の様だった。
この戦力を相手に戦いになったとしてもさほど苦戦することはないはずだ。
今はゼペック爺さんも上級拳闘士兼、盾使い兼、聖職師なのでおそらく敵の7人の誰よりも強い。
元々この教会にいた人間は多分それほど事情に詳しくはないだろう。
この7人がキル達をどうにかしようとするためにやってきた人間だ。
そう推測するキル。
「キル様でございますね。私はサナリア教の教皇をしているルミナスと言うものです。
大教皇スカヌス様の命を受けて貴方様をお迎えにやって参った次第でございます」
こんな無理やりの方法で迎えもあったものではない…と思うキル。
「よろしければ私と一緒にスタインブルクの大教会にお越しいただきたいのですが、いかがでしょうか?」
「どうして私をスタインブルクに連れて行きたいのですか?」
「貴方に…次期大教皇になって頂くためと伺っております」
「はは…牧師でも神父でもない俺がいきなり次期大教皇とはおかしくないですか?」
「神のお告げですから、おかしくはありませんよ」
「つまり俺が大教皇になる事は神のお告げで決まっていると?」
なんとか話のおかしな所を見つけて断る理由にしなくては………と思うキル。
「さあ?そこまでは聞いていませんが、おそらく大教会で学んで頂く事によって大教皇になる運命なのではないかと思います。お連れしろと言われておりますので、それが無ければ運命が変わってしまうと言うこともありえますからね」
上手い言い訳をするな……なんとか奴らの真の目的を言わせなくては…と思うキル。
「俺がその神のお告げで言われたキルだと言うのはどうしてわかるのですか?別のキルという人間かもしれません。俺である証拠はなんですか?」
「それは……貴方の事をずっと探していたからわかるのですよ」
ルミナスが少し困った様に言いよどんだ。
「そのキルという人間はどういう特徴の人間なのです。特殊な能力を持っているとか?探すに当たっての目印とかは?」
「それは……パリスの街に住み腕利のスクロール職人と聞いています」
ルミナスは言いたくないのか声が小さい。
やはりキルのスクロール職人としての腕を欲しがっているだけだ。
そんなことはわかりきっていた事だがな……
「つまり、スクロールを作る能力が目印だと?」
やはり俺にスクロールを作らせるつもりだ……
「いえ、それはただの特徴で、スクロール職人だからということではないのですよ」
「残念ですが今これからすぐにスタインブルクに行くことはできませんよ。俺にもしたい事があるのでね」
「いえ、これからきていただかないと、運命が変わってしまうと困りますから!」
焦り出すルミナス。
「いえ、絶対に行きません。私はまだやりたい事があるのです。それに大教皇などになりたくもないですしね」
「きて頂かないと困ります。」
「すみませんが帰らせて頂きます」
「そうはさせません。力ずくでもね」
「とうとう本性をあらわしましたね?初めから断ることはできなかったという事でしょう。それは頼んでいるとは言いませんよ」
「聞き分けのない子供だ。やりたくはなかったが聖騎士の皆さん。このもの達を拘束して下さい」
「「「は!」」」
ルミナスの後ろの聖騎士達がキル達を取り囲んだ。
「逃げられると思ってるんですか?怪我をしたくなければ大人しくしなさい」
ルミナスが馬鹿にしたように口の端を上げる。
「はは!とんだ暴力教皇様だ。呆れたね。それなら正当防衛といかせてもらいましょう」
キル達も戦闘態勢に入った。
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