206 油断
ニコゴンダンジョンからアルバスの街に戻ってきた『15の光』はすぐに街に広がる噂を耳にした。
それはドラゴンロードと名乗る男とその仲間の男によってアルバス公爵ハーメルンとその執事ザパスが殺されたというものだった。
「あの嫌らしい男、殺されたの?」
サキが呆気に取られた表情で言った。
「良かったっすね。あいつ絶対悪い事してたに違いないっす」
ケーナの意見に皆んなが頷く。
「緑山泊のドラゴンロードさんかしら?」
「犯人?そうかもしれませんね」「うん。うん」
「変態に狙われなくなって助かったであるな!」
「変態ーねー」
とユミカとマリカ。
「領主不在?って事ですかね?」
キルはグラを見る。
「そういう事だろうけど、すぐに血縁者が後を継ぐだろうから特に問題は起きないさ」
『15の光』は宿屋について部屋をとった。
女子部屋と男子部屋に分かれる。
女子達はハーメルンの悪口に花が咲きそうだ。
ゼペック爺さんはレベルアップしてからというもの元気いっぱいだ。
「キルさん、一緒に街に出てくれんかのう?」
宿屋に着いて早々に街を散策したいと言い出した。
昔であれば椅子に座ってボーっと何処かを眺めていたものだが、レベルアップしてステータスが上がると動きたくなるのだろうか?
「良いですよ。一緒に行きましょう」
1人で出歩くのは不安があるのでキルはゼペック爺さんについて行く事を了承する。
キルは確認のためにグラに目線を送る。
「良いよ。行ってくれば」
グラは問題ないと返事をした。
キルとゼペック爺さんは宿屋を出る前に女子部屋に声をかけた。
「ゼペックさんと街をぶらぶらしてきます。何かあったらグラさんに言ってください」
「「「はーい」」」
少女達から快い返事。
「私もご一緒してよろしいでしょうか?」
「クリスもいきたいかい?別に良いですよね、ゼペックさん?」
「良いぞえ」
ゼペックはニコニコしながら許可を出す。
「じゃあ、自分も行って良いっすか?」
とケーナ。ユミカも手を上げる。
ゼペック爺さんが笑って頷いた。
5人は宿屋を後にして街に繰り出した。
キル、ゼペックの後ろにクリスとケーナが続く。
その後ろによそ見をしながらユミカが続く。
「初めはこの4人だったっすねー」
ケーナが感慨深そうに言った。
「夕食を一緒にしたんだったかのう」
「そうですわね」
まだ1年も経っていないのに遠い昔のことの様だ。
5人で歓談しながら歩いていると前方に15〜6歳に見える痩せた男の子がペンと蝋皮紙を持って立っていた。
男の子はキルを見るとササっと寄ってきて話しかけてきた。
「あの〜、ちょっとお話しするお時間は有りますか?」
「え!」
キルは思わず立ち止まってしまった。
男の子は可愛らしい笑顔を向ける。
「世の中の生き物はどうして皆同じ様な姿をしていると思いますか?」
「皆同じ?様な?形をしてるかですか?」
訳のわからない質問をしてくる子だなあ?と思うキル。
「はい。生き物は皆目が2つ鼻が1つ、口が1つですよね?」
う〜ん、そう言われてみればそうかもしれないなあ………
「え〜と、どうして生き物は皆んな目が2つで口と鼻が1つかって?」
「そうです。どうしてだと思いますか?」
男の子は満面の笑顔を向ける。
「うーむ。どうしてでしょうね?」
「いや、別に目が2つではない生き物もおるぞや。蜘蛛とか。みみずに目はないぞや。
鼻も無い」ゼペック爺さんが割り込んだ。
「え!えっと………手は……あれ?おかしいな。」
そうだゼペックさんのいう通りだ……どうしてそんなことに気づかなかったのだろう。
さすがはゼペックさん、物知りだなあ……と思うキル。
「それらは神から見捨てられたものに違いない……そう、そうだよ。」
男の子が何かぶつぶつ言い出した。
『神?』って言ったかこの子?もしかして神殿の手の者?
は!として周りを見ると信者と思われる者たちにいつの間にか囲まれていた。
(やられた………しかもこの人たちは罪もない一般人、暴力を使って逃げるわけにはいかないか、路上に眠らせて放置してしまうという手もあるけれど……)キルは愚考する。
5人の腕を周りの人たちが掴む。
「こちらでお話をしませんか?」
5人は大勢に取り囲まれて教会へと連れて行かれるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます