196 毒蜘蛛のゲル

「ゴホン、ゴホン。なんじゃこの煙は?」

ロムが咳をして目をこする。


宿屋じゅうに黒紫色の煙が充満していた。

宿屋にいた人間はバタバタと倒れていった。


「これは毒煙だ。毒耐性3のおかげで影響はないようだが、これは黒蜘蛛党の攻撃に違いない」グラはそう言うとゼペックを守るように身構えた。


「クッキーちゃんが心配だ。隣の部屋に移動しよう」

隣の部屋にクッキー達はいるのだ。


グラがドアを開けて通路に出ると背が低い小太りで忍者装束の男がいた。

この男が索敵にかかっていなかったことにグラは驚く。


「ナニ!ドラゴンをも殺すと言うこの毒霧の中を平気で動く男がいるとは」

驚いたのは小太りの男も一緒だった。


だが部屋から次々3人の男グラ、ロム、ゼペックが出てきたことに忍者装束の男はさらに驚いた。


「どう言うことだ。1人ならまだしも3人もが毒に侵されていないとは」


「お前だって平気そうにしているじゃないか。何を驚くことがあるんだ」

グラが毒霧男を挑発する。


「俺は毒耐性を持っているからな」


「俺たちもだ。お前、黒蜘蛛党だな」


男が煙玉を床に向かって投げつけた。


逃げようとしての行動に違いない。


その刹那グラが抜刀一閃毒霧男の胴を薙いだ。


「逃がすかよ!」


グラが笑った。


毒霧男は真っ二つに切られて崩れ落ちた。


「毒耐性を身につけておいて良かったのう」

ゼペックが悪い顔で笑った。


「宿屋にいた他の人間はどうなってるかのう」


「死んでいる可能性が大でしょうね」


グラ達はクッキー達の部屋に行き毒霧男を切り捨てたことを伝えた。

彼女達は全員無事だった。


「これって私達捕まらないんすか?」

ケーナが不安を口にした。

「逃げた方が良いと思うっすけれど」


「役人が来ると面倒なことになるから逃げよう。

馬車は多分馬が死んで使えないだろう。

徒歩でキル君達と合流だ」

グラが決める。


荷物は全てマジックバッグにしまい急いで宿屋を出る。

索敵でキル達の居場所はすぐにわかった。


そして宿屋にむかっていたキル達と合流した。


「どうしました。宿で何かありましたか?」

突然予定外に現れたグラ達を見てキルが聞く。


「毒霧男に襲撃された。

毒耐性のおかげでみんなは無事だったが、他の人たちは即死だろうな。

馬車の馬も死んだので馬を捨てて逃げてきたんだ」


「私たちも女郎蜘蛛のリョウとかいうのに襲われたわ。

奴らところ構わず襲ってくるのね」


「その毒霧男は毒蜘蛛のゲルですね。クリープさんの手紙にありますよ」

キルがグラに手紙を渡した。


「鬼蜘蛛のジャキ、女郎蜘蛛のリョウ、土蜘蛛のドトン、雷蜘蛛のギラリ、火焔蜘蛛のグレン、毒蜘蛛のゲル、蜘蛛隠れのスイか。毒蜘蛛のゲルは倒したわけだな」


「女郎蜘蛛のリョウも倒したわ。ゼットさんがだけれどもね」


「ゼットさんがじゃと?緑山泊のか?」


「そうよ。賞金稼ぎのゼットさんが賞金首だからって言ってね」


サキさんの透き通る白い肌にやや赤みがさしている。


エリスがそれを見て気を利かせた。

「ゼットさんってカッコいいですよね。『礼を言われる理由はないな』とか言って」


サキの頬がさらに赤くなった。


「そうですか〜?キザっていうか?なんかカッコつけすぎで引いちゃいますよ〜。

今に『俺に惚れちゃあ、いけないぜ!』とか言いそう」

モレノが無神経に毒舌を吐いた。


サキの頬から赤みがスーと引いていった。


「モレノ、言い過ぎ。一応恩人」

ルキアがモレノを注意する。


「ま、まあ、ゼットさんが1人倒してくれたおかげで黒蜘蛛党は残り5人ということだな。敵が減って良かった…良かった」

グラが冷や汗を流しながら話をまとめる。


「とにかく急いでこの街を離れよう。

ついたばかりで悪いんだが、ここに居ればまた狙われるのは目に見えているからね」


「そうね。それがいいわ」

サキが賛成した。


「死んだ馬は置いてきたっすが、馬車自体はマジックバッグに入れてきたっす。

跡がつかないように持ってきた方がいいと思ったっすけど」


「よくやった。ケーナ。いい判断だよ。でもバッグがいっぱいだろう」

キルがケーナを褒める。


「そうっすね。もういっぱいっす」


「後で俺のストレージに移そう」


「それじゃあ、馬は調達しないで次の街までは飛んで行こう」

とグラ。


町の外へ向かい歩き出す。

メンバー達は目立たぬところでフライを唱える。

空を飛んで黒蜘蛛党からも逃れることにしよう。


隣町に向かって飛んで行く15人だった。

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