195 女郎蜘蛛のリョウ

「何が書かれているの?」


キルはサキに手紙を渡した。


「フーン、これが敵の名前か…」

サキが眉間に皺を寄せた。

綺麗な顔は眉間に皺を寄せても綺麗なのか……と思うキル。


「なんとなく敵の能力の推測がつきますね。クリープさんには感謝です」

キルが感謝を口にしながら、この言葉をどこかでクリープが聞き耳をたて拾っているかもしれないと推測する。

クリープもまた、やり手の忍者なのだ。


ギルドを後にして繁華街の方に向かう7人。


クリープからもらった手紙を回し読みして7人が敵の名を知る。


エリスのピンクの瞳がまん丸になって驚きを現している。

横のユリアの水色の瞳もまん丸だ。

「それぞれ変な技を使いそうな感じ?」「うん。うん」


「こんな街中ではまさか襲ってこないよねえ」

と金髪のモレノ。


「きっとそう」

と銀髪のルキア。


だが2人の予想は見事のはずれた。


後ろからさっきギルドにいた冒険者達が虚な目をしてキル達の方に向かってきていた。

その数は30人近い。


「「「お前達はリョウ様の敵」」」


「「「こ・ろ・す」」」


明らかに何者かに操られている表情だ。



「この人たちって黒蜘蛛党の構成員って事はないですよね」

キルがみんなに意見を求めた。


「だろうな、何者かに操られているのだろう」

無口なホドが真っ先に答える。


「殺さずに気絶させましょう」

振り返るサキの赤い髪と透き通るような真っ白い肌が鮮やかだ。


キルは普通の剣を出して冒険者を峰打ちにしていく。


メンバー全員が手加減して戦っている。


エリス達はこの前のライガー狩りの時の回避訓練がかなり役に立っている気がする。


少女達は冒険者からの攻撃をスルリスルリとかわしていた。


初めは30人くらいだった敵が後から後から増えている。

もう冒険者ではなく一般人が襲ってきていた。


一般人はより手加減が必要だ。かえってタチが悪い。


「キャー!エッチ!」エリスの悲鳴。


倒した冒険者がまた動き出して寝たまま手を伸ばしてエリスの足を掴んだのだ。


エリスは飛び退いて、ユリアがその冒険者を蹴り上げる。

「こおんのおー!エリスに触るな!スケベ!」


ユリアに蹴られて冒険者が飛んでいった。

怒りのこもった一撃だ。


ユリアってエリスのことが本当に好きなんだね。

それにしても蹴り飛ばされた冒険者が心配になる。


向かってくる人間が次々に現れ際限がない。

この騒ぎを聞きつけた10人ほどの警察官が駆けつけてきたがそいつらも操られて向かってきた。


ミイラ取りがミイラになるとはこの事だろうか?


これは黒蜘蛛党の仕業に違いないのだが原因の蜘蛛野郎を倒さなければ収拾がつきそうにない。


戦いながら黒蜘蛛党を探すキルだが周りじゅう敵だらけですぐには見つからない。



突然操られていた人たちが動きを止めて倒れ出した。


遠くで忍者装束の女がゼットに背から胸を剣で貫かれているのが見えた。

次の瞬間ゼットは剣を女から抜きその剣は女の首を飛ばす。


どうやらゼットが黒蜘蛛党を倒してくれたようだ。

それで操られていた人たちが動きを止めたのだろう。


キルはゼットのそばに走りより感謝の言葉を告げる。

「助かりました。ありがとうございます」


ゼットがニヤリと笑って女の首を拾う。


「俺は賞金首を倒しただけだぜ。

女郎蜘蛛のリョウと言って魅了の力で人を操る迷惑な女さ。

あんたらのこととは関係ない。礼を言われる理由もないな」


ゼットは踵を返して去って行く。


キル達はゼットを見送った後素早くその場を離れて面倒ごとを避けるのだった。



繁華街を散策するのを取りやめて宿屋に戻ることにする。


残してきた仲間が心配になったからだ。


エリス達も自分たちが襲われた事で仲間の事が心配になり街の散策という気分にはなれないようだ。


「クッキー達襲われていないかなあ?」「うん。心配だね」


「早く帰った方が良いかも」とモレノ。


キルがサキとホドに目配せしてから宿屋に戻ると宣言した。

「急いで戻ろう」


黒蜘蛛党は1人減ったがまだ6人もいるのだ。


それも一人一人が思ったより危険な能力を持っていそうだと思える。

クリープの手紙を早くみんなに見せて注意を促そう。


名前から推測できる能力は対策を検討して警戒をしておいた方が良い。



女郎蜘蛛のリョウとの戦いを経験して思いもよらぬ攻撃が行われるかもしれないことをみんなが心に刻むべきだと強く感じるキルだった。

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