194 ノルンの街

黒蜘蛛党という謎の一族から命を狙われる事になった『レスキューハンズ』

毒対策は万全にしてノルンの町を目指した。


御者台のキルはいつもよりも周囲の様子に気を配りながら馬を操っている。


キルは遠くに7つの強烈な敵意を感じ取った。


馬車を止め、メンバーに注意を促す。

そして馬車とメンバーをスキンシールドの魔法を使い防御膜で覆った。


7つの気配は6つ消え、ひとつだけに減っていたがその1つの気配はこちらに近づいてきている。


暗殺者か?


「わたしが倒すのである」ユミカが馬車から御者台に飛び出した。


「待って。ユミカ。早まらないで」はやるユミカをキルが抑えた。


近づく影の正体が目の前に姿を現した。

黒い忍者装束を着た異常に手足に長いせむしの男だ。

背中には忍者刀を背負っていた。


不気味に笑うせむし男。


「黒蜘蛛党か?」

キルが叫ぶ。


馬車からレスキューハンズのメンバーが次々と外に出た。


「黒蜘蛛党の名を知っているのか?」

不気味な声で聞き返すせむし男。


「俺は黒蜘蛛党、火焔蜘蛛のグレンよ。喰らえ!」

男が名乗ると同時に5本の炎柱が馬車の辺りに爆発と共に立ち昇った。


火炎の柱に包まれたメンバーであったがスキンシールドのおかげでことなきを得る。


せむし男は火魔法が効いてない事に表情を歪めた。


「今日のところは挨拶だけにしておいてやる」

次の瞬間せむし男の声だけが不気味に響き男の姿がかき消えていた。



炎が消えて辺りは静まり返った。


グラが馬車の被害を確認しながら頷いた。

「大丈夫だ。馬も馬車も被害はないようだ。キル君の防御魔法のおかげだな」


「あれが黒蜘蛛党、油断できない奴らね」とサキ。


「引き際も心得ておるようじゃな。

こちらがシールドで守られていることを見抜いてすぐに攻撃を諦めおった」

ロムが敵を高く評価した。


「有効な攻撃力を持っていなかったとも言えるが、シールドをかけていなかったらゼペックさんとクッキーちゃんは危なかったね」

グラがゼペックとクッキーの心配をした。


「それにしてもキル先輩さすがっす」

ケーナの言葉にクリスも尊敬の眼差しをキルに向けた。


照れるじやないか。キルが頬を赤らめる。


「たまたま用心しておいてよかったよ」

キルが言った。


「どうやら黒蜘蛛党は逃げたようだからノルンに向かおう」

グラが馬車の安全を確認し終えて皆んなを乗り込むように手招きする。


マリカがゼペックの手を引いて馬車へと乗り込んだ。


全員が馬車に乗り終わるのを確認してキルは御者台に乗り込み再び馬車を走らせた。




しばらくして馬車はノルンの町に着いた。

15人が泊まれる大きめの宿屋で空きの部屋を探し、そこそこ上級の宿屋でまとまった空き部屋を見つけた。


15人がなんの予約もなく泊まれる宿屋は数が限定されるので暗殺者には探しやすいかもしれないと思うキルだった。


そう思うと宿で出される食事など、口にするものには毒を盛られる危険があるだろう。

毒耐性を取得しているとはいえ要注意だ。


部屋は3部屋に分かれて泊まる。男達5人と女子2部屋だ。


落ち着いたところで町に出ることにする。

ゼペック爺さんとクッキーは部屋にいたいということなのでゼペック爺さんをグラとロムが守り、クッキーを同室のクリス、ケーナ、マリカ、ユミカが守ることになった。


キル、ホド、サキ、エリス、ユリア、モレノ、ルキアはギルドを含む街の散策に出かけた。


ノルンの町は国境に近い町とあってそれほど大きな町とはいえない。

パリスより小さい中くらいの町だった。


周りの村から人が集まる町ではあるが周りの村の数自体が少ないのだろう。


ただ国をまたいで移動する人が多いために宿屋の数はたくさんあった。


キル達はギルドでさっき狩ったライガーを20匹程買い取ってもらった。

ギルドはそれなりに立派な建物で冒険者もたくさんいそうだった。


緑山泊で作ってもらった冒険者証も怪しがられることなく利用できた。

ちなみにパーティー名は『15の光』でメンバーの名前はそのままキルはキルだった。


冒険者ランクはEのゼペック、クッキー、残りはDで登録されている。

全く実力を反映していない。


ギルドを出ようとすると出口の扉で呼び止められる。


「よお!」

出口の壁に背を預けているのは賞金稼ぎのゼットだ。


「これはゼットさん。この前はご馳走になりました」

キルが挨拶をする。


「クリープから預かった」

ゼットがキルに一枚の手紙を飛ばして渡す。


キルが手紙を受け取るのを確認してゼットは何も言わずに踵を返して去っていった。



キルは渡された手紙を確かめる。



『黒蜘蛛党の7人 鬼蜘蛛のジャキ、女郎蜘蛛のリョウ、土蜘蛛のドトン、雷蜘蛛のギラリ、火焔蜘蛛のグレン、毒蜘蛛のゲル、蜘蛛隠れのスイ』


抜け人クリープが調べたらしい敵の情報が書かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る