189 ロマリア王国を目指して

馬車は快適に西に向かって走っていた。


目指すは西の隣国ロマリア王国だ。


このベルゲン王国ではもうキル達は牢破りであり犯罪者として捕えられる理由ができてしまっている。


それはキル達に悪い部分が無かったとしても、同情するべき理由があったとしても動かしようのない事実になってしまったのだ。


国内を逃れて隣国に移り住む事ができればこの国の法は通用しない、捕まることもないだろう。



3日間馬車を走らせ続け、ルクスブルクの街についた。

この街で宿をとって一休みをする。


この街は『谷間の百合』に匿われていた街だ。

ゴリアテに連絡をつけようとすれば簡単につけられるだろう。


ゴリアテはいつでも力になると言っていたが今はその必要はない。


街の繁華街に程近い大きな宿屋に泊まり食材や調味料に加えて料理道具なども買い揃えてる。


野営地でもクッキーに料理の腕を振るってもらえるようになった。

出来合いの食糧もストレージにたくさん保存する。


2日目の夕方、宿屋に街の警察組織の人間20人がやってきた。

勿論キル達を捉えるためだ。


索敵でその動きを察知していたキル達は馬車に乗り込み脱出をはかったが囲まれて止められてしまった。


「止まれ! ここは通さん」


20人に遮られて御者をしていたキルが馬車を止めた。


「どうかしましたか?」

キルが白々しく役人に問いただす。


「お前らパリスの牢破りだな。ネタは上がっている。隠しても無駄だぞ。大人しく捕まるんだな」


20人はぐるりと馬車の近くで逃さんと身構えている。


キルは馬車から降りもせず答えた。

「20人で我々を捕まえようってのは無理な話でしょう。

怪我はさせたくないのでここは引いてくれませんか?」


「抵抗するつもりか。取り押さえろ!」


その言葉で20人が動き出す。


「スリープ」

キルは次々と役人を眠らせた。

初級、中級の戦闘職の人間にキルのスリープに抗えるものはいなかった。


全員を眠らせるとキルは何事もなかったかのように馬車を走らせる。


後には道に寝転ぶ20人がいた。



街を出て次の街に馬車をはしらせるキル。

馬車の中からグラが顔を出して言った。

「さすがだな。キル君。少しヒヤヒヤしていたよ」


「強そうな人がいませんでしたから、特に問題ではなかったですね」


「わかっていたけど、それでも心配にはなるよな」

グラは笑っていた。


「俺たちを捉えようとするなら軍を動かさなくては無理でしょうね」

キルもわらった。



1時間ほど馬車を走らせていると後方から30ほどの気配が急接近してくる。

先ほどより強そうなもの達の集団だ。


軍か騎士団が追いかけてきたかな?と思うキル。

「追手が来ていますね。その辺で待ち構えて追い払っておきましょう」


馬車を止めて中から全員が降りて戦いの準備をする。

「殺さない程度に無力化しましょう。相手は上級30人程度のようです」


「わかっておるわい」

ロムが言い、ホドが頷く。


30の追手が目の前で馬を止めた。

「我々はルクスブルク騎士団、大人しく捕まれ、抵抗すると武力を行使する事になるぞ」


キルは以前商人にもらった普通の剣を抜き30人を3秒の早技で峰打にして倒す。

騎士団員にキルの動きが見えたものはいなかっただろう。


全員がばたりと倒れた。

キルの腰で剣を納める音がした。


「峰打ちです。そのうち目を覚ますでしょう」


「馬車から降りるまでも無かったな」


「バカに強いのが迫っておるぞ」

ロムが注意を促す。


後方から相当強そうな気配が近づいてきていた。


「ああ、あれは多分知り合いです」

キルが近づく気配について安心するようにコメントした。


気配の正体は馬を飛ばしてやって来たゴリアテだった。


「やっぱりゴテだったかい?安心しな。捕まえに来たわけじゃないからね」


「ゴリアテさん、お久しぶりぶりです」


「それがあんたの仲間かい?驚いた連中だね。緑山泊に勝てそうだよ」

ゴリアテはキル達の気配を察知して追いかけてきたようだ。

勿論キルだという確信を持っていたのだろう。


「いえいえ。緑山泊は、とても強い人がたくさんいると聞きましたよ。戦うつもりも無いですしね」


「これだけの猛者達が緑山泊のそばを通ったら、きっと奴らは討伐隊が来たと勘違いしてお迎えが現れるだろうさ。ガンダルに当てた手紙だ。あんたが王国から追われている奴だと書いておいたよ。誤解を解くのに役立つだろうさ。持っていきな」


ゴリアテが手紙を差し出した。

これを渡すためにやって来たのかとゴリアテの顔を見るキル。

面倒見のいい人だな…と思う。


「じゃあな!また会えるといいな」

手紙を渡すとゴリアテは踵を返すのだった。

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