188 牢破り

「落ち着け。助けに行くぞ」


「え!」


「これからゼペックさんを助けに行くんだ」


「・・・・・・」


「しっかりしろ。これからゼペックさんを助けに行くからな。牢破りだ」

グラがキルの耳元で囁く。


キルは驚いてグラの顔をまじまじと見た。


「牢破り?」


聞き返すキルにグラが答える。

「そうだ。クランにお前宛の手紙が残されていた。

パリス第3警察署に出頭するようにってな。

密かに探ったらゼペックさんとクッキーちゃんはパリス第3警察署の牢に囚われていた」


「・・・・」


「警察署には20人程度の兵と役人がいた。普段より全然多いな。

お前を抑えるためだと思うが、全然戦力が足りてない。

俺たちの戦力を見誤っている」


「戦うんですか?」


「ああ。だが殺すつもりはないぞ。相手は上級数人と残りは中級だ。殺さなくても簡単に無力化できるだろう」


「スリープの魔法で眠らせれば怪我をさせずに無力化できますよ。

俺にやらせてください」

キルは元気ずく。


「ああ。任せるぞ。それでは善は急げだ」


「あの、助けた後はどうするんですか?」


「遠くに逃げるしかないだろうな」


「・・・・」


「行くぞ」


行こうとするグラを止めるようにキルは言った。

「牢破りは俺1人でできますよ。皆んなはここで待っていてください」


「みんなで行こう。どうせレスキューハンズのメンバーはパリスに残れば捕まるんだ。

なら一緒に行動したほうがトラブルは起きにくい。助けたらすぐ飛んで逃げるんだ」


「わかりました」

キルが頷く。


この事はキルが合流する前にみんなで話し合われた内容だった。

みんなが静かに移動を始めた。


フクラダンジョンを出ると夜空に星が輝いていた。

肌に感じる初秋の緩やかな風が少し涼しかった。


キル達は、次々と飛び立ってパリスの第3警察署を目指した。




深夜第3警察署の前に立つレスキューハンズのメンバー、これから牢破りが行われる。


第3警察署のドアを開錠の魔法で開けて音も無く侵入するキル。

グラが後に続いた。


残りのメンバーは第3警察署の前で待つ事になっている。

2人で十分に戦力は足りているのだ。


キル達は遠慮なく中に侵入してまだ寝ていなかった職員を見つけると即座にキルのスリープで眠らせた。


牢屋にとじこめられていたゼペック爺さんとクッキーを見つける。

2人はだいぶ痛めつけられていた。


「酷い事をしやがる」

キルは拳を握りしめながら怒りを押し留めた。


牢屋は開錠してゼペック爺さんとクッキーにヒールをかける。

気がついたゼペックとクッキーに騒がぬように人差し指で唇を押さえ合図した。


「助けに来ました。逃げましょう」

小声でキルは2人にそう告げた。

頷く2人。


グラは周りに注意を払いつつみんなを逃す。

起きてくるものがいればキルがスリープで眠らせるつもりだったが誰も起きて来なかった。


警察署のドアから無事外に出るとみんなが待っていた。

クッキーとモレノが無言で抱き合う。


そして全員夜空へと飛び立ち西に向かって飛んでいった。


「どこを目指しますか?」

どこに逃げるか決めていなかったのでとにかくパリスの街から離れようとする。


先頭を飛ぶグラが答えた。

「適当に街から離れたところで野営できそうな所を探そう」


まずは追手が来ないところまで離れる事が大事だ。


夜も遅い事だし適当な森の近くで野営をする事にした。




朝まで5〜6時間の睡眠を取ってから朝食をとりまた空を飛んだ。

とにかくパリスを離れて追手が来ないようにしたいのだ。


2時間ほど飛んで人里離れた山の麓に降りた。


「この辺に隠れ住んでみるか?それとも諸国を旅して回るか?」

グラが今後の事を相談し出した。


「わたしは、こんな山奥に隠れ住むくらいなら諸国を旅したいわね」

サキは旅をする事に1票を入れた。

クリス達も旅に賛成して女性陣はみな旅希望だ。


確かに山の中に籠るのも気が滅入る。

それなら金もふんだんに有るのだし移動し続けている方が楽しいかもしれない。


何処かで15人以上乗れる馬車でも買って逃げながら旅を楽しむのも良いかもしれない。

考えてみれば隣国に逃げ込めばそう簡単には追手は来られないのではないだろうか?


「次の街で馬車を買って旅をしながら隣のロマリア王国でも目指しましょうか?」

キルの提案に女性陣は喜ぶ。男性陣も考えた挙句に賛成した。


「次の街で宿をとって馬車も調達しよう」

グラが話しをまとめた。


なんだかんだ言っても実質的リーダーはグラだ。

そしてその事に誰も異存はない。


一行は近くの街に宿を取り馬車を調達するのだった。




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