183 野営地にて

夕刻まで第4階層で狩りをして第3階層で少女達8人と合流、いつものように野営をする。


キルは1人で憂鬱そうに物思いにふけっていた。

どうしてこうなってしまうのかなあ・・・。



クリスがキルに近寄ってきて聞いた。良い匂いがする。

「キルさん、6日後はどうするんですか?クランには戻れませんよね。また何処かに行ってしまわれるのですか?」

クリスは心配そうだ。


キルは眉間に皺を寄せる。

「まだ決めていないんだ。けれど少しの間はまだここに居て、何処かに行ってしまうという事はないと思う。」


ホット胸を撫で下ろすクリス。


「ただ明日から第5階層で狩りをしようと思っているから、1人で籠る時には第5階層で籠もろうと思うよ。」


クリスの顔色が少し曇る。

「8日後にまたこの階層で会えるんですよね。」


5階層には少女達だけでは行くことができない。キルが3階層まで降りて来てくれなければ会えないということなのだ。


「そうだな。多分会えるだろう。」


「良かった。1人で野営する時は気をつけてくださいんね。」

笑って見せるクリスが可愛い。


「大丈夫。精霊を召喚するから。」


「そうですね。キルさんは精霊達を召喚できるのですものね。」


そこに茶色のポニーテールを揺らしながらケーナがやって来た。

「キル先輩、自分らそろそろ聖級に進化する頃だと思うんすけど。ジョブスクロール買いたいっす。」


「欲しいのはケーナだけじゃないんだろう?」


「皆んな欲しいんじゃないっすかね?クリスも欲しいっしょ?」


「ええ、欲しいですわ。」

頷くクリス。


キルは8人用の⭐︎5ジョブスクロールを渡した。

「費用はこれからのクランの運営に充ててくれ。暫く身を隠さないといけないからな。

みんなの面倒を見れなくてすまないな。」


「なに言ってるっすか。今まで十分に面倒を見てもらったっす。これからは自分の安全を第一に考えて欲しいっすよ。」


「それとな俺が居ない間ケイトさんに面倒を見てくれと頼まれる落ちこぼれのことも面倒を見てやってくれ。今までやって来たようにやれば良いんだ。スキルスクロールとジョブスクロール渡しておくからマジックバッグに入れといて。」

ケーナが頷く。


クリスが思い切ってある提案を口にした。


「キルさん、もし宜しければわたくしの実家にキルさんを匿ってくれるようにお願いしてみようかと思いますが?」


キルはよく考えてから返事をした。

「クリスの実家は貴族様だろう。俺を匿うような真似をしたらまずいと思うよ。そこまで迷惑はかけられないよ。」


クリスが悲しそうな顔をする。


「大丈夫だよ。それに俺、少しレベル上げしたいと思ってるから暫くフクラダンジョンにいると思うし。」


「キル先輩まだ強くなりたいっすか?自分らいつまで経っても先輩に追いつけないっすね。戦いで先輩のピンチを救うみたいな事がしたいんすけどね。」


「ケーナは十分そのレベルになってると思うけど?それにもうすぐ聖級になるなら俺と同じじゃないか。」


「そうっすけどそうじゃないっす。キル先輩はただの聖級冒険者より全然強いっすもん。」ケーナが困ったような顔をした。

そして2人はメンバーにスクロールを配るために踵を返した。


少しして8人の少女達がキルを囲んだ。

そして⭐︎5ジョブスクロールについて感謝を示した。


マリカがその青い目でじっとキルを見つめ子首を傾げニッコリ笑う。

「あーのー、キルさんー。わーたーしー、聖女にーなりたいなー。

聖女のー、ジョブスクロールってー、作れませんかー?」


「う!」

驚くキル。


周りの少女達も目を瞬かせた。


マリカはこの前聖女様などと言われてその気になっているらしい。


「残念だけど作れないな。作れるようになったら作ってあげるけど?紋様辞典には聖女の紋様は空白なんだ。神の恩恵でしかなれないのかもしれないよ。」


王級のキルにはまだ聖女の紋様が描かれていても見えないようだ。

聖女の紋様は特別なのだろう。


残念そうにするマリカ。


「マリカが聖女って、ノホホン聖女だよね。」「うん。うん。」

エリスとユリアがマリカを揶揄った。


ユリアはいつもエリスに引っ付き虫だ。


「「「そーだねー。あはははは・・・」」」

皆んなの笑い声が響き渡った。


少女達はその後もとりとめのない話でキャラキャラ、コロコロ笑うのだった。

キルはそれを見ながら楽しいな・・・と思った。

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