182 2度目はどうする?

小細工は通じないものだなと思うキル。


このまま直ぐに逃亡するか、それとも役人の話を聞くか?


教会に従って大教皇にしてもらうか?


大教皇といえば教会のトップ、今の大教皇が許すはずもないおかしな話だ。


王家はなんと言ってくるのだろうか?

貴族にしてやるとでも言うのだろうか。


どうせスクロールを作らされるのは間違いない。

でも今でもスクロールを作っているしそのこと自体、やる事は変わらないのかもしれない。

イヤ!強制的にスクロールを作り続けさせられるかも。


生産者ギルドのオッサンの言っていた事が本当とは限らないし、逃亡生活も楽なものではない。それなら王のもとでスクロールを作っていた方が良いのではないか?


流されやすいキルの性格が頭を持ち上げる。



「どうなのだろうな?俺はまだ(ゴテ=キル)と言う事はバレてはいないと思う。

ただ仮面のゴテがキルではないか?と疑っている段階なんじゃないかな。」


仮面が疑いを強めたかもしれない。


「じゃが、疑いの段階でも乱暴な手にでぬとも限らんぞ。」

ロムは逃げる事が無難な対応と考えているようだ。


心配そうに大人達の顔を見つめる少女達。


グラ、ロム、サキがどう言う言葉を口にするのか、聞き逃すわけにはいかないというか真剣な表情だ。


「私は王家なんて信じていないから、できれば役人とキルが接触を持たないでやり過ごせればその方がいいと思うわ。別に今更お金に困るわけじゃないんだし、貴族になりたいとか思わないでしょう。」

サラが口の端を釣り上げる。



「そうだな。相手がどのくらいこちらの事を知っていたとしても、こっちには奴らと関わりを持つ必要はないからな。」

グラが腕を組んで胸を張る。


「そう言う事じゃ。明日にでもキルはダンジョンに潜ってしまえ。」


ロムの提案にキルも頷いた。

そうだ。今更貴族になる意味なんて無いのだから。


その晩は数日ぶりのベッドで熟睡するキルであった。



翌日フクラダンジョンに出発しようとするキルに近寄ろうとする者が駆けてくる。


キルも索敵で事前にチェックしていたので捕まる前に空に上がった。


不審な3人が空を見上げて立ち止まり飛び去るキルを目で追った。

そしてホームに立ち寄ることもなく立ち去っていった。



「危ない、危ない。あいつら教会の人間の服装じゃなかったな。王家関係の人間かな。フクラダンジョンに着いたら急いで潜ってしまおう。」


キルは飛び続けフクラダンジョンに逃げ込んだ。


キルは一気に第4階層まで潜り鎧竜を倒しながらその日を過ごした。

また逃亡生活になることへの不満を鎧竜にぶつけるように、キルはいつもより激しく鎧竜を倒していった。


キルの持つミスリルの剣はいつもより強い魔力を受けて強く輝き鎧竜の硬い体を紙切れのように切り捨てていく。


鎧竜は瞬時に魔石と煙に変わっていくのだった。


「フー。」と深いため息をつき、うつむくキル。

ずっとダンジョンの中で生きていくような事はイヤだなあ・・・などと考える。


また鎧竜が現れて、キルは剣を振るう。

「クソ、クソ、死んじまえ!」

鎧竜が次々に倒されていった。

この階層でならキルは無双だ。


6時間おきにツインヘッドシルバーウルフを倒し、夕刻には聖級精霊を召喚して自分は休んだ。休む前に余ったMPでスクロールを作る事は日課だ。


翌日の午前にグラ達4人が合流して、その後の経緯を耳にした。


「昨日はクランを訪ねてきたものはいないが周囲からは見張られていたようだ。」

グラが腕を組んで言った。


「どうも・・すみません、いつまでも迷惑をかけてしまって。」


「何言ってるのよ。仲間が困っていたら助けるのは当たり前でしょう。

キル君は何も悪いことしてないのに、変な奴らに付き纏われて、可哀想だわ。」


何も悪いことをしていない。

何も悪いことをしていないのか?

ジョブスクロールをたくさん売ったからこうなった。


ジョブスクロールはたくさん売っちゃダメだったんだ!


キルは俯いて拳を握りしめた。


ロムがキルの肩を静かに抱いて慰める。


「スクロールを売った事が悪いんじゃないぞ。独り占めしようとする奴が悪いのさ。」



グラが話を変えた。

「なあキル君、これからレッドドラゴンを倒して5階層で狩りをしないか。」


「そうね。私たちも早く王級冒険者になりたいしね。」

サキもグラの意見に賛成した。


キルも早く王級冒険者に進化したいと思うと同時に聖級冒険者よりステータスの高い上級冒険者の事を思い出した。


進化ボーナスはとても大きいけれどレベルが1ずつ上がればステータスも1ずつ上がっている事を忘れてはいけないと思うのだった。



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