177 新生レスキューハンズと指名依頼

ゴテ(キル)の冒険者登録が無事に済み、新しい人間としての生活が始まった。


あい変わらずの(6日間)フクラダンジョン通いである。

やはり稼ぎにもレベル上げにもパリス近郊ではフクラダンジョンが1番良い。


フクラダンジョンから戻るとギルドから『レスキューハンズ』に指名依頼がきているとクッキーに教えられる。


クランリーダーのケーナとサブリーダーのクリスが冒険者ギルドに依頼の詳細を聞きに行った。


ギルドから戻ってきたケーナがみんなを集めて依頼の内容を説明する。


「指名依頼の中身っすけど、場所は少しだけ遠いっす。

草原のヌーヌーの大移動って例年通りあるじゃないっすかあ〜。

今回その移動先のヌーヌーが異常に進化してミノタロスが大量発生してるらしいっす。

その原因究明と討伐が依頼っす。」


胸の辺りで腕を組んだグラが眉間に皺を寄せる。

「ミノタロスを狩ることはさして難しくはないだろうが、数がどれだけいるのだろうなあ。」


「そうじゃな。ヌーヌーといえば10万、20万の群れは当たり前じゃぞ。」

ロムは口を『へ』の字に曲げている。


「その内どれくらいがミノタロスに進化してるのかしら?そこが問題ね。」

サキが口の端を吊り上げて微笑む。


あまり心配している様子はない。


「その依頼わしらだけでやるのか?」


「冒険者は自分らだけみたいっす。ただ地元の騎士団が街の方に来ないようにすでにミノタロスと戦ってるらしいっすよ。」


クッキーが皆んなに声をかける。

「あのー。お食事の準備が整いましたので、食堂にどうぞ〜。」


ホールの隅の椅子に腰を下ろしていたゼペック爺さんがゆっくりと立ち上がった。


「とにかく明日依頼をこなすために現地に飛ぼう。」

キルが話に区切りをつけた。


皆んなは食事をとるためにホームから移動を始めた。




上空から見下ろすとヌーヌーの群れがエビ紫色の絨毯のように見える。

一面を覆い尽くすヌーヌーの群れだ。


その中に背の高い個体が混じっている。ミノタロスだ。


時々ヌーヌーが立ち上がり光に包まれてミノタロスに進化する瞬間が見てとれた。

次々にミノタロスに進化している。


「やばいっすよ。ドンドンミノタロスになってるみたいっす。」

ケーナが叫んだ。


「早く討伐を始めた方が良いですわね。」

キルの右横を飛ぶクリスが柔らかい口調で言った。


「そうだね。」


グラがその意見を制するように言った。

「騎士団が来ているなら合流して狩りを始めるべきじゃないか?」


「ワシもそう思うのう。」

ロムも賛成のようだ。


「あそこよ!あそこに戦っている一団がいる。きっと騎士団に違いないわ!」

サキが右の方を指差している。サキの赤い髪が風に揺れる。


指差す先に土煙の混じって人とミノタロスが戦っているのが確認できた。


「よし、あそこに降りて騎士団を助けるぞ!」

戦いの指揮はグラが自然にとるようになっている。


皆んなはグラを先頭にして右の方に飛んで行った。





「団長!数が多過ぎます!」

「泣き言をいうな!俺たちが抜かれたらミノタロスが街に傾れ込むんだぞ!」


騎士団は上級騎士の団長以下中級、初級の騎士達40人ほどで構成されていた。

ごく小さな町の騎士団という規模である。


団長の言葉に反してミノタロスは騎士団の横をドンドン街の方に移動していた。

騎士団の数からして面としてミノタロスの数を止められるほどひろがれないのだった。


もうすでにミノタロスに騎士団の壁が抜かれているのだ。


「くそう!」


街の方に行こうとするミノタロスを見て騎士の1人が悔しそうに叫ぶ。


騎士団のいないところを何食わぬ顔で抜けて行くミノタロスに何もできず、目の前のミノタロスの斧を交わす騎士。焦りの色が浮かぶ。


そのミノタロスに上空から矢が突き刺さり爆発した。

ミノタロスの背中に大穴が開きミノタロスは倒れ込む。


騎士は矢の飛んできた方向に目をやった。


黒い影が頭上を通り過ぎ次々と人間が降りて来た。

信じられない光景だ。


近寄ってきたミノタロスが振り下ろす斧を弾いて返す刀で首を刎ねる。

援軍か?と思う間に降り立った人間達がミノタロスを駆逐し始めた。


その装備からして冒険者らしいと判断する。

冒険者が助けに来てくれたのだ。


誰かが依頼を出していたのだろう。

冒険者は依頼がなければこんなところに来るはずがないのだから。

彼らは金で雇われて働く傭兵なのだ。


「よし!立て直すぞ!」

騎士団長の大きな声が響いた。

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