172 キル ルクスブルクを去る

キルがルクスブルクに来てからそろそろ1ヶ月が経とうとしていた。


その間毎日MPがなくなるまでスクロールを作っていた。

スクロール作製経験値を稼いで神級スクロール職人になるためだ。

そのうち蝋皮紙のストックも減り店で相当な数の蝋皮紙を購入した。


しかし蝋皮紙の購入には1番危険を感じる。


どうしても多量の蝋皮紙が必要になるし、蝋皮紙の大量購入はどうしても目立つ。

同じ街に長居をすれば調べにくるような事が起きないとは限らない。


それに魔石もかなり減ってきてしまった。

フクラダンジョンで魔石を集めようかとも思う。


それにパリスの仲間のことが気になって仕方がないのだ。

皆んな元気にやっているだろうか?


フクラダンジョンに潜ればレスキューハンズのメンバーとダンジョン内で会えるかもしれない。


そう気付いた時からキルはフクラダンジョンで魔石を集めようかという考えが頭にこびり付いて離れなくなっていた。


「ゴリアテさん。おれ、そろそろここを出ようかと考えているんですけれど。」

キルはゴリアテに自分の考えを告げた。


ゴリアテは驚いて聞き返した。

「追手が来たのか?アチキにはわからなかったけれど。」


「いえ。そうではないのですけれど。」

キルは申し訳なさそうに続ける。

「これ以上同じ場所にいると足取りをつかまれてしまいそうなのでまずいという事です。

自分ダンジョンで死んだと偽って逃げてきているので生きていることがバレるとまずいんです。

それにやりたいこともあるので。」


ゴリアテは腕を組んで眉間に皺を寄せる。

「出ていかなくてはならない理由は納得した。で、やりたい事ってなんだ?」


「ダンジョンで魔石を集めながら仲間と会う事です。」


「そうか。昔の仲間と連絡を取るのか。」


「はい。もう1月になりますからそろそろ捜索の手も落ち着くのではないかと思いますし。」


「少し早いかも知れないね。以前アンタが言っていたように3ヵ月は待つべきだ。」

ゴリアテは感情を交えず正当な判断を下す。


「はい。3ヵ月はホームの周りには行かないつもりです。ダンジョン内なら周りの魔物の強さからして普通探しに来れないところに隠れることができますからね。」


「なるほどね。それなら止めないよ。気をつけるんだよ。逃げてきたらいつでも助けてやるからさ。」

ゴリアテが右手を差し出して別れの握手を求めてきた。





ルクスブルクを後にしてフクラダンジョンを目指すキル。


ゴリアテさん、わりと良い人だったなあ。

なんてことを思いながら青空を仰ぐ。

ルクスブルクの街を出て目立たないところから空に上がった。


フクラダンジョンまでひとっ飛びに飛んで行こうと思っていたが眼下に盗賊に襲われている人達を発見した。


少し迷ったが助けるために現場に向かった。


2台の馬車を20人程の盗賊が取り囲んで護衛の冒険者4人と切り結んでいる。

1人倒れているのはすでに切られた冒険者に違いない。


「手を貸すぞ〜。」

キルは叫んで盗賊達に斬り込んだ。


手にしているのは変装用の安物の剣で有る。ミスリルの剣では目立ってしまうからだ。


キルはかかって来た盗賊の右手を切ってその横をすり抜けると次の盗賊の剣を弾き飛ばす。


続け様に盗賊の持つ剣をたたき落としもうすでに5人の盗賊が腕を押さえて戦力外だ。


キルは盗賊のボスらしき髭面の大男を睨みつけた。


盗賊達の中で1番強そうなのはこの髭男だ。

それでもその強さはせいぜい中級の上位というところだ。


キルの眼力に押されて髭男が叫ぶ。

「退け!退け〜!」


盗賊達が四散した。


戦っていた護衛の4人がキルを囲んで感謝の意を示した。


「助かったよ。大した腕前だね。」

「良いところに来てくれた。君が来てくれなかったら俺たちは死んでいたよ。」


「いえ。もう少し早く来ていれば、彼も死なずに済んだのに、申し訳ない。」

謝るキル。


「いや。助けに来てくれただけでもありがたかったよ。盗賊20人相手、普通は逃げるものなのに。」


盗賊が逃げ去ったことを確認したのか馬車から人が出て来た。

背の低い小太りの男だ。


「お前達よくやった。もうダメだと思っていたよ。」

そう言いながら近寄って来た小太りの男がキルを見つけて静止した。


「彼が助けてくれたんですよ。凄い剣の腕前で一瞬で5人の剣をたたき落としたんです。」護衛の冒険者の1人が言った。


「そうか。そんな事があったのか。なら彼は命の恩人という事だね。」

背の低い小太りの男がキルに近寄って下からキルを見上げる。


「ありがとう。よく助けてくれたね。何か礼がしたいのだがね。」

そしてキルの安い剣を見るとパッと顔を輝かせた。


「私は商人なんだけれど後ろの馬車に売り物の剣があるんだ。どうか礼としてもらってはくれないか?」


キルの安い剣を見てもっと良い剣ならありがたがると思ったのだろう。

「はい。ありがとうございます。」

キルは素直に商人の礼の品を受け取った。


チョッと良さそうな普通の剣で有る。安物の剣より丈夫そうだ。


キルはそのまま商人達に別れを告げて歩き出した。

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