171 紅月山の戦い
ゴリアテの活躍によって黄燐山の要塞を手に入れた冒険者軍。
その頃紅月山では王国軍と盗賊達が血みどろの戦いを行なっていた。
王国軍3000が紅月山に立て篭もる盗賊達1000と戦って大きな損害を出して引き分けていた。
籠城戦ともなれば守る側が圧倒的に有利なのはいうまでもない。
しかも1000人が立てこもれるほどの大要塞だ。黄燐山とはサイズが違う。
立て籠る盗賊達も名のある猛者が十数人いるのだ。
王国軍も今回仮に紅月山を落としてもその後緑光山まで攻略する戦力はないだろう。
王国軍は紅月山を囲んで明日に備える。
黄燐山の冒険者軍には攻略した要塞をとことん破壊するようにという命令が来ていた。
明日は要塞の破壊作業で忙しくなりそうだ。
翌日、冒険者達はノリノリで要塞を破壊し終えて依頼完了のはずだった。
しかし、当然のように援軍を続けるよう依頼される。
紅月山の戦いでは王国軍の苦戦が続いていた。
この王国軍は多分キルの作ったスクロールを使って進化した人たちがかなり含まれていると想像できる。
かなりの数のジョブスクロールを売ってきたが、キルの影響では盗賊団1つ討伐できるようになっていなかった訳である。少なくともこの現場では。
生産者ギルドのオッサンはこの王国に1番多くのスクロールを売ったと言っていたはずなのに。
自分の影響などたかが知れていたなあと思い直すキルだった。
とはいえ⭐︎2と⭐︎3までならそれほど大きすぎる影響はないかも知れないが⭐︎4ともなると話は違ってくるだろうなあとは思うキルだった。
⭐︎4によって特級冒険者が量産されたらそれは相当な戦力差が出るに違いないのだ。
とは言えガングルのように⭐︎3の人間でも努力によって⭐︎5相当の実力を持った例も稀にはあるわけだ。というかそういうことが可能なわけだ。
この戦いに参加してキルはいろいろと思うことがあった。
だが今1番考えなければならない事は、この戦場から生きて帰る事だ。
冒険者軍が王国軍と合流したのはその日の日暮近くだった。
本格的な参戦は明日かと思われた。
しかし思いもよらぬ事に、緑光山からの援軍が現れたのはその晩のことだった。
緑光山からの援軍2000が王国軍に夜襲を仕掛けてきたのだ。
緑光山軍と紅月山軍に挟み討ちされた王国軍と冒険者軍は奮戦した。
キルも剣を取って応戦することになったのだった。
この攻撃で王国軍は当然ながら大きな損害を受けたのだった。
そして王国軍は撤退することになった。
またしても王国軍は緑山泊討伐に失敗したのだ。
この結果はシルキー達『谷間の百合』にとっては予想通りの結果だったし、追加の依頼についてはあまり乗り気ではなかったため早く撤退できて良い結果といえた。
「王国軍はまた負けてしまったねえ。」
ゴリアテが明るく言った。
「王国軍は思った程強くなかったな。」
シルキーは目を細めた。
「スクロールで強くなったなんて、どうもおかしいと思っていたのさ。」
プリンも王国軍をあざわらう。
上級戦闘職で固められた冒険者軍には大きな被害はなかったが、初級、中級が多かった王国軍は半数が討たれる結果となった。
「まだしばらく緑山泊は安泰ということになるね。ゴリアテには良い結果かしら?」
「シルキー、アタイには関係ない事だよ。ガングルには良かっただろうけどねえ。」
プリンがゴリアテを見て笑う。
「ガングルも元気そうに戦ってたじゃないか。」
「そうだったなあ。」
ゴリアテが空を見上げて遠い目をする。
何を思っているのだろう。
キルも戦場でガングルの戦いを目にした。
それはもう凄まじいものだった、
鬼の形相でまるで暴風のように周りの王国兵を大剣で薙ぎ倒していた。
一騎当千の戦士をリアルに再現するとああなるのか?と思う。
リアル千人斬り、千人くらい切り飛ばしそうな勢いだった。
⭐︎3の人間でもここまで強くなれるのかと感心する。
結局討伐レベルに上限はないようだと思う。
頑張れば少しずつでも伸びていくことの生き証人だな。
王国軍の兵士が敗戦のダメージでしょんぼりしていたのとは対照的に冒険者達は戦いが早くに決着して戦場から離脱できる喜びと被害も最小限に収まった事でそれほど暗い雰囲気ではない。
冒険者軍の解散の許可を得て軍は解散、依頼は達成した。
結局のところ緑山泊討伐の第1目標だった黄燐山と紅月山の攻略は黄燐山の破壊のみにとどまり紅月山の攻略は失敗に終わった。
しかし3つの拠点の内の1つを破壊できた事は1つの成果と言っても良いだろう。
キルは王国も国内の問題が山積していることを知った。
キルも『谷間の百合』も怪我もなく依頼を終えてベースに帰って行った。
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