173 キルと幻の怪鳥

高速で空を飛ぶキル。


商人達を助けた後、キルは人知れず空に上がった。


フクラダンジョンまで一っ飛びの予定が人助けをして時間がかかってしまった。

今日中にフクラダンジョンまでたどり着きたい。

そのためにキルは全速力で空を飛んでいるのだった。


前方に飛行する魔物の気配を索敵でとらえるキル。

かなり大きな魔物である。

しかもかなりのスピードで飛行していた。


ドラゴンならこれほどのスピードで飛ぶ事はできないはずだ。


キルは頭の中で空飛ぶ魔物の正体を予想する。

次々に浮かぶ空飛ぶ魔物を考察してもこれほど大きくそして早く飛べる魔物は浮かばない。


しばらく魔物を頭の中でリストアップしていたがとうとうその条件に合致する魔物を思い出した。


幻の怪鳥、ギガントスワローだ。


飛行速度、体長、シルエット、、、間違いなくギガントスワローだ。


キルは幻の怪鳥ギガントスワローを一目に見ようとその怪鳥の気配に向かって飛行した。


ギガントスワローは最大の空の魔物でその最高飛行速度は空の魔物最高速と言われるビームハヤブサに肉薄するとされる。


大きくそして早い空の帝王と呼ぶに相応しい魔物なのだ。

戦えばエンシェントドラゴンにはかなわないだろうがそれでも相当な強さと人気を持つ魔物である。


キルにとっても小さな頃から憧れの魔物の1つだった。



キルの目の前にギガントスワローの姿が見えて来た。

悠然と飛ぶその孤高の姿にキルは感激する。


大きな翼。時折はばたく。まるで翼が飛んでいるようだ。


キルはできるだけ近くで見たくなって更に近づこうと飛び続けた。

ギガントスワローに気付かれないようにステルスで姿を消し風になって近づく。

そしてギガントスワローの隣を並んで飛んだ。


至福のひと時である。


ギガントスワローはしばらくキルを気にせず飛んでいたが突然翼を強くはばたくとスピードを上げた。


キルはその翼の起こす衝撃波によって飛行バランスを崩して落下しかけた。


ギガントスワローに置いてきぼりにされたキルはそのスピードに驚き近づくことは許されない事を悟った。


「スゲ〜!」

思わず言葉が漏れる。

そしてギガントスワローと一緒に飛ぶことを諦めた。


キルは気を取り直して再びフクラダンジョンを目指すのだった。


フクラダンジョンに着いたのはもう夜であった。

晩飯を食べる事なく一気に第3階層まで移動してそこで野営の準備をした。

ストレージから出した飯を食い精霊を召喚して守らせる。


そしてクリーンで身を清め眠りにつくのだった。



目覚めると2階層のフロアボス、ブラッドオーガを狩ってから3階層の奥を目指して進む。


シザードウルフチーフ達を倒しながら進みいつもの野営場所を過ぎてから3階層のフロアボス、ツインヘッドシルバーウルフを倒して4階層に移動した。


野営場所にレスキューハンズの面々がいなかったのは残念だった。


4階層で鎧竜狩りをしながら1日を過ごし夜はまた3階層で野営をする。

いつもレスキューハンズと一緒に野営していた場所だ。


野営地に行くと人の気配。レスキューハンズの面々が野営の準備をしているのかも知れない。


別のパーティーだと困るのでチラ見して確認をする。

マリカが見えた。レスキューハンズだ。


キルはメンバー以外がいないか確認するためにマリカの方に小石を放る。

索敵では8人なのでおそらくメンバー以外はいないと思うがマリカに確認しようと思ったのだ。キルは慎重派である。


マリカが小石に驚いて視線を向ける。

そこには口に人差し指を立てて騒ぐなの合図とともに手招きをするキルがいた。


大声をあげそうになるのを押し留めてよってくるマリカ。

「どうしましたかー? 久しぶりですー。」


「メンバー以外はいないだろうな?確認だ。」

小声で話すキル。


「大丈夫ー。追手はここにはいませーん。メンバーだけですよー。皆んなにー会って行って下さいよー。」

マリカは普通の音量で話す。


「良かった。」

キルはマリカとみんなの方に歩き出した。


ケーナがキルに気づいて手を振った。

「キルセンパーイ!」


メンバーがキルに駆け寄る。

1ヵ月ぶりの再会である。


「皆んな元気だったか?」


「はい。大丈夫でした。」「うん。うん。」とエリスとユリア。


「自分らは大丈夫っすけどまだホームの周りを嗅ぎまわっている連中が居る見たいっす。」とケーナ。


「俺はちゃんと死んだことになってるのか?」


「大丈夫っす。ギルドには手続きしたっす。」


「サキさんやグラさん達が私達と行動をともにしてくださって、安心していられましたわ。ただキルさんの事が心配で、何事もなかったのですか?」

クリスが目を潤ませている。


「いろいろあったけれど危ない事、怪我とかはなかったよ。その話は後でね。」


「サキさん達もフクラダンジョンに来てるっす。もう少ししたら戻って来るっすよ。」


ケーナの言葉が終わらぬうちにサキ達の気配に気づいたキルであった。

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