169 『谷間の 百合』の指名依頼

ベースの宿でゴリアテと朝食をとっているとシルキーがゴリアテを呼んだ。

「ゴリアテ、仕事だ。」


『ガタリ』と音を立てて椅子を立つゴリアテ。

キルは関係ないだろうと座ったままでいるとゴリアテがキルを顎で呼んだ。


え〜と思いながら黙って立ち上がるキル。

俺ってこのパーティーのメンバーじゃないんですけど〜。


『谷間の百合』のメンバーが集まって仕事の打ち合わせだ。


シルキーが口を開く。

「今日はギルドから指名依頼があった。内容は盗賊団の討伐。」


「アタイらに盗賊団の討伐ー!舐めてるのかい?」

ゴリアテが不満の声を上げる。


シルキーが目を細めてゴリアテを睨む。

「イヤ。そうでもない。あの有名な盗賊団の本拠地緑山泊だ。」


メンバー全員の表情が凍結した。


緑山泊、その悪名高い盗賊団の巣窟は14歳のキルでも知っていた。

王国中に悪党が逃げ込んで王国軍をも退けるとも言われる大勢力になっていると聞く。


緑山泊の幹部には元王国の武術指南や将軍も混じっているらしい。


シルキーが説明を続ける。

「緑山泊には3つの山が有りそれそれが要塞のようになっているという。

その3つは緑光山、紅月山、黄燐山でそれぞれに盗賊団のアジトがある。

立て篭もる盗賊の数は真偽は定かではないが緑光山3000人、紅月山1000人、黄燐山500と言われている。それぞれに名のある猛者が数名はいる。」


プリンが口を尖らせて言った。

「緑山泊て言ったら3年前王国軍の討伐隊が打ち負かされて逃げ帰ったっていうやつじゃないの。私達だけでやるって訳じゃないんでしょうね。」


「当たり前だよ。私達は王国軍の援軍で、冒険者で一軍を作る中の一人だよ。

黄燐山と紅月山をはじめに攻めるらしいが王国軍が紅月山、冒険者軍が黄燐山を攻める作戦だとさ。」


「シルキー。冒険者軍は誰が指揮をとるんだい?」

とゴリアテ。


「私以外にいると思うかい?」

口の端を吊り上げるシルキー。


ゴリアテが腕を組んで天井を睨む。

「ゴテの戦力は欲しいが目立つのはまずいねえ。」


「冒険者登録もしてないしね。」とプリン。


「ルクスブルクの冒険者軍では200人集まれば上出来だろうしゴテの戦力は欲しいから冒険者登録をしてもらおうかね。」


ウエ〜・・・・まずいよね〜。キルは顰めっ面でゴリアテを見た。


ゴリアテは顎を手でさすっている。


プリンが不思議そうにシルキーに聞いた。

「王国はどうして緑山泊を討伐しようとか思ったのかね?

この前散々だったのに?」


シルキーが目を細めて言った。

「なんでもスクロールで国軍を強くできたらしいよ。」


キルの顔がピクリと動いた。


「今度こそ緑山泊を退治できるって思った訳かい。そう上手くいくのかね。」

ゴリアテが信じられないというふうだ。


「スクロールってのが怪しいね。」とプリン。


「まあ、私達は黄燐山を落とすのが仕事だからなんとかなるんじゃないかな。」


500を200で倒すって大丈夫なの?

普通城を落とすためには3倍の戦力がいるというのでは?そんな事を思うキル。


「黄燐山って言ったらアイツが居るんじゃないのかい?」

ゴリアテが腕を組んだまま冷や汗をかいていた。


シルキーが目を細めてゴリアテを見る。

「アイツは苦手かい?」


「別にそういう事はないけどね、ただアイツは訳あって隠れ住んでいるが決して悪い奴じゃないからなあ。アイツとはやり合いたくはないね。」


緑山泊には悪い貴族や役人のせいで身を隠す事になった実力者がたくさんいるとも聞いている。

そういう人の1人かなとキルは想像した。

もしかしたら自分も緑山泊に身を置いていたかもしれないなんて考えがよぎった。


ちょっとやる気が削がれる。


「私が思うにガングルは私やゴリアテを見たら戦いを避けて、緑光山に逃げると思うけどね。奴も戦いたくないだろう。」

シルキーが目を細める。


ガングルという名は初めて聞く。

ゴリアテやシルキーの知り合いのようだ。


「そのガングルという人は誰なんですか?」

キルは気になって聞いてしまった。


シルキーとゴリアテがキルを見る。

「知りたいかい?そりゃそうだよねえ。アンタに似た事情持ちだからね。」


「そうね、奴も自分のことは何も言わなかったわね。どうして追われることになったのか、とかね。」シルキーが目を細めてゴリアテを見つめた。


「奴もアタイが拾ってきたやつさ。アンタみたいに。名もアタイがつけたんだよ。」


どうやら先輩がいたらしい。

それがどうして今黄燐山にいるのかは知らないがそういう事もありそうだと思うキルだった。

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