167 ゴリアテ と お買い物 1
『谷間の百合』がベースにしている宿に匿われて数日が過ぎていた。
キルはゴリアテに連れられてルイスブルクの街を歩く事がしばしばである。
逃亡生活中のキルといえども宿に篭りっぱなしというのはメンタル的に無理なのだ。
「おい、ゴテ、武器屋で武器を見て回らなーか?良い武器に出会うかもしれね〜。」
「はい。良いですよ。」
キルはゴリアテに逆らう事なく後をついて行く。
「ゴリアテさん、あれから働かないんですね。」
「たりめーだろう。グリーンドラゴンだぞ。ドラゴン。いくらになったと思ってるんだよ。しばらく遊んで暮らせるだろう。」
ゴリアテ達は十分金がある時は働く気にならないようだ。
ゴリアテに限らず冒険者は毎日毎日命をかけて働くのは嫌がるものが多い。
金に困って命をかけているのだ。
金に困りそうが無い状態になると遊んでしまいたくなるというのは多数派と言えた。
そもそも貯蓄という概念が浸透していなかった。
銀行のようなものもあるがそれすら潰れていつの間にか店が消える事がしばしばだし、部屋に置けば盗まれる。
大金を持っていれば強盗に狙われる。
とにかく治安などという物もなければ、信用できる相手も少ないのだ。
銀行のようなものと言ったが預かり屋と言った方がピンとくる。ようは預かり料を払って金庫に入れて安全に保管してもらうというものだ。
だからわずかな金では預けない。銀行の貸金庫だけの業務しかないと思えばイメージ的にズレは少ない。
しかしながら銀行が強盗に狙われる事は、現代社会とは比べるまでもなく頻繁に起きているのだ。
物の値段も突然跳ね上がることもしばしばで買える時に買うという考えの方が主流派と言えた。それが逆に身の安全を守る事につながっていたりする。
ゴリアテ達のように強いものは盗賊に狙われることなどないだろうが、それでも金があれば楽しむという風潮は当たり前であった。
「それより良い武器でもあれば買って、そしたら働きたくなる。そういうもんだろうがよう。」
「その2本の大剣、見るからに御高いじゃないですか?その剣に不満でもあるんですか?」
「不満は…無い。コイツはアタイの宝みたいなもんだからねえ。」
キルはゴリアテの2本の大剣を見てこんな大剣が売っているところなんてなさそうだと思うのである。
大きくて品ぞろえの多い店にゴリアテは入って行く。
「ゴリアテ様、ようこそいらっしゃいました。今日は何か御探しですか?」
痩せ型の店員がへりくだって手をさする。
「アタイが見るのは武器と防具に決まりだよ。」
額に冷や汗を流しながら店員が答えた。
「さようでございますか。ゴリアテ様のサイズは品ぞろえも少ないですから御メガネにかなうものがあるかどうか?」
そしてゴリアテの後ろに付き従うキルに目をやり少し考えてから目を背ける。
若い付き人か?可哀想に・・・とでも言いたそうだ。
その通りである。
ゴリアテは一通り武器防具に目を通してから言った。
「ねーなあ?たまにはあっても良いのになあ。」
「申し訳ありません。」
「わるかった。邪魔したなあ。」
ゴリアテはそういうと、踵を返し店を出る。
キルも後に続いた。
ゴリアテに似合うビキニアーマーがよくあった物だなあと改めて疑問に感じたキルである。
「仕方ね〜。作りに行くか?」
ゴリアテはそういうと、職人が多く住むという一角に足を進めるのであった。
「ゴリアテさんは何が欲しいんですか?」
キルが尋ねるとゴリアテが喜んで満面の笑みだ。
「ねえ、聞いてくれる〜。実は最近このビキニアーマーがきついのよ〜。
胸が大ききなっちゃったみたいなの〜。ねえ見てみて〜。ほらキツイでしょう。」
胸を近づけてくるな!この痴女が!と思いながら顔をそむけるキルである。
胸が大きくなったって胸筋が鍛えられただけでしょう。
アンタ柔らかい肉ついてないでしょ〜。
心の中で叫ぶキルだあった。
こうしてキルはゴリアテのビキニアーマーを作るために職人の所に付き合わされる。
「ここがアタイのビキニアーマーを作ってくれる工房よお。」
ゴリアテに連れられて工房に入る。
ムキムキのオヤジが女装をしているようにしか見えない奴(性別不明)が奥から出てきた。
「あーら、ゴリアテちゃんじゃないの。今日はどんな御用〜。」
そういった次の瞬間その男とも女ともわからない(いや、髭の跡がガッツリ残っているから男だな。)人の目がキルに止まる。
筋肉ムキムキの大男(女装中)がニッコリ笑う。不気味だ。
「あーら、ゴリアテちゃんの良い人〜。ゴリアテちゃんも隅に置けないわね。可愛い子じゃなーーい。」
身に危険を感じるキルである。
「コイツはゴテ、アタイのだから手を出すんじゃねーぞ。」
ゴリアテさんのじゃないんですけど、と声には出さず。
「わかっているわよ。大丈夫。で、今日はどうしたの?」
「ビキニアーマー。新しいのが欲しくなった。胸が大きくなったらしいんだ。」
「あらあら、じゃあはからなくっちゃね。こっちに来て。」
2人はキルを残して奥に入って行った。
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