162 逃亡生活 2
「マ〜! 14歳かい。 いい頃合いだね〜。」
何がいい頃合いなんだか訳がわからない。
「飲み屋の接待役なんかして見ないかい?執事の服を着てさあ。お金持ちの女のお相手をするのさ〜。話を聞いているだけで金を貰えたりする楽〜な仕事さあね。やってみないかい?」
「それってもしかして水商売系の男子になってみないか?って事ですか?」
「そうそう。あんた若いし可愛いからきっと人気が出るよ〜。気が向いたら言っておくれ。なんなら店を見に行ってみるかい。」
「イエ、そう言う仕事はチョット。」
「そうかい。稼げるのにねえ。残念だねえ。」
「イエ。そう言うのはチョット無理です。はい。」
まさかそれなりの宿屋に泊まったつもりがチョット勘違いだったかもしれない。
泊まるのは一晩だけにしておこう。
キルは逃げ腰になりながら朝食はしっかり食べる。
朝食を食べたら宿は出ようと思うのだった。
キルは宿を出て街を見て回る。この街は潜伏するのに適しているのかどうだろうか?
しかしどういう街が潜伏に適しているのか、そもそもよくわからない。
だったらいっそ3ヶ月旅でもしていたほうが良いかもしれない。
10数億マジックバッグに入れて渡して来たとはいえ、金に困る事は無い。
だからそれなりの値段の宿屋に泊まっても大丈夫なはずだ。
ただ14歳の男の子がそんなに金を持っていてそこそこの宿屋に何泊も泊まっていたら目立ってしまうに違いない。やはり宿はそれなりにチープな宿にしておくべきだろう。
この街では最初から良くない宿屋に泊まってしまった。験が悪いので隣町に行ってみようか。
乗合馬車の駅停に行き、何処行きの馬車があるのか確かめる。
そうする事で近くの街の名前も知ることができるのだ。
元きた方向と逆方向つまりは西方向に行く馬車はルクスブルク行きと書いてあった。
ルクスブルクまで1200カーネル。
それほど高い金額ではない。乗ってみるか?
キルは飛行していけないこともないが、此処は馬車移動をしてみようと考えた。
この路線は比較的安全らしい。危険な路線を走る馬車の値段はもっと高いのだ。
何故なら危険を犯すから。危険手当分高くつく、、みたいなもんだ。
キルは小銭を払って馬車に乗り込んだ。
キルを乗せた馬車はゴトゴトとキルを揺らしながらルクスブルクへと向かって行った。
馬車の中でキルは目立たない様に隅の方で大人しくしていたがそんなキルに話しかける者がいた。
「あんたみたいな子供が1人で馬車に乗るなんて珍しいね。何処から来たんだい?」
胸が無ければ誰しもが男と疑わないだろう筋肉ムキムキで身長は180は有りそうなゴッツイ顔の女だ。ビキニアーマーから覗く腹筋はバキバキに割れている。
キルは突然話しかけられて驚いた顔で見返した。
「お、、れ、、ですか?」
赤髪ショートのその大女は真っ赤な瞳でキルを睨む。
「そうだよ。あんたどう見ても只者じゃないねえ。」
「、、、、、、只者じゃないって、、、どういう事、、、ですか?」
「その若さで、その強さ、なりはそんなだがS級かい?仲間はどうしたい?それとも隠密行動って訳かい。」
どうやらこの女はキルの強さを感じ取ったか鑑定でもしたのだろう。
「Aです。今は1人旅、、、依頼とかじゃ有りませんよ。」
「フーーーン。」
口の端を上げて続ける女。
「今は1人旅か、、、面白い。」
周りの視線が2人に集まっていた。
「アタイはルクスブルク唯一のS級冒険者、大剣使いのゴリアテ姐さんだ。あんたの名は?」
ゴリアテと名乗ったその女は確かに背中に大剣を背負っていた。
それも2本。
キルは本名は名乗れないと思って黙り込む。
「名乗れないのかい。さては訳ありってとこか。」
そしてゴリアテは耳元で小さな声で話しかけて来た。
「追われているのかい?」
キルは答えない。
「あんたほどの実力があって1人で馬車に乗って逃げる様にひっそり身を隠しているってことは、何か事件に巻き込まれたか?どうなんだい?」
この女は何者なんだと思うキル。Sランク冒険者のゴリアテ姐さんか。何なんだ。
「面白そうだね〜。話してみなよ〜。力になるよ〜。」
耳元で囁くゴリアテ。不気味なことこの上無い。
絶対事情は話せないと思うキルである。
「別に何でも無いです。ただの観光って言うか、、、あてもないブラリ旅が好きなんです。」
キルも小声で答える。
「面白いね〜。あんた多分アタイより強いだろ。アタイは強い男が大好きさネ。面白いね〜。1人旅〜。アタイも1人旅がしたくなったな〜。いや、2人で旅するのも良い。」
この女、俺に付きまとうつもりかよ〜。まいったなあと思うキルだった。
この前の女将といい、ゴリアテといい、この前から女運が悪いのか?
目指す方向を間違えたのか?
「ルクスブルクはアタイのホームだ。身を隠したいならかくまってやるよ。その代わりアタイの狩りに付き合いな。事情はいっさい聞かないからさ。良いだろう?」
キルは諦めてコクリと頷いた。
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