160 偽装工作

翌日、いつもは1日の休養日を挟む為にいつもと同じ様に休日にして明日からフクラダンジョンに潜る事にした。


今日1日は情報収集と逃亡準備で有る。


生産者ギルドは昨日行っているので今日は近づかない。

商業ギルドと商店街の大店で買い物をして金板を小金貨に崩しておきたいのが1つ。

何故なら逃亡中に金板などを使うと目立ってしまうからだ。

今まで高価な魔石や紙やMP回復薬などをまとめ買いしていた関係で金板を使ってもさほど不自然ではない店を利用する。


「武器も武器屋で普通の武器を買っておく。変装様だ。そして金板を崩しておいた。」


不自然にならない程度の買い物で済ませておく。


そして冒険者ギルドに顔を出して最近の様子を確かめる。


ケイトさんが近寄ってきて昨日キルの事を聞き回っている男達がいた事を教えてくれた。だいぶこちらの情報をつかみ出しているらしい。クランのホームにやってくるのももうすぐかもしれない。


明日からまたフクラダンジョンに潜ると伝えてアリバイ工作だ。

明日朝早くから移動してダンジョンにに潜ってしまえば後は如何とでもなる。

今日を乗り切ればグッと楽になるのだ。


商店街からずっとつけてきている気配があったのには気付いている。

そしてこの冒険者ギルドにも見慣れない顔の2人組が混じっているのにも気付いていた。


冒険者ギルドを出ると2名の神官風の男がキルを呼び止めた。

「すみませんがキル様でいらっしゃいますか?」


キルは立ち止まりダッシュして逃げるか話に乗ってみるか考えて後者を選択した。

「はい。私はキルですが、何か?」


振り返りながら様子を伺った。

昨日つけてきた男達の様だ。


「実は私達は神の御信託を受けてキル様を教会にお招きする様に申しつかっております。宜しければ御一緒していただけると有り難いのですが。」


神の御信託ときたか?さて如何したものだろうか?


「あの、教会とはどこの教会ですか?」


「まずはこの街のミセル神教会においで頂き、その後大神官になるべく然るべき大教会にてお世話をさせていただく運びかと思われます。」


「チョット待って下さい。俺は冒険者ですから神官?それも大神官なんかにはなれませんよ。人違いではありませんか?」


「イエ! これは神の御信託です。キル様はその様に生まれついております。間違いございません。どうぞご同行下さいませ。」


「チョット待ってください。俺にも予定というものがあります。これからダンジョンに潜りますのでその後で参りますのでそれまでお待ち下さい。仲間との都合もありますのでこれは譲れません。それにしても俺が大神官になる為に生まれていたというのは本当ですか?にわかには信じられないですよ。それが普通でしょう。」


「神の御信託はほんとうです。ですからぜひご同行をお願いします。」


「申し訳ありませんがダンジョンから帰ったら行きますから今日はお帰りください。無理を言う様なら決して同行はしませんよ。」


「ですが、」「聞き分けのない!本当に神官様ですか?」


「はい。  わかりました。今日はこれで引き下がります。またお迎えにあがります。その時はよろしくお願いします。」


キルは冷や汗を拭きながら2人の男が引き下がってくれて良かったと思う。


2人に背を向けてクランのホームに帰ろうとするキル。

やれやれで有る。


仮に武闘派の人間で暴力的に拉致しようとしてきたら反撃しなければならなかった。

密かに鑑定して普通の戦力しか持たない人たちなのは確認済みだ。

コイツらが後ろから襲ってきても拘束されるつもりはない。


スタスタと2人の男から離れていくと男たとは密かに尾行を始めた様だ。

今更ホームを知られても問題はないだろう。


留守中こいつらが来てもまだダンジョンから帰って来ないと言うだけだ。

クッキーやゼペック爺さんに少し迷惑かもしれないが奴らは何ができると言うこともないし、しようとしても帰ってくるまでは何も効果的なことはできないと思うはず。

問題はないだろう。


キルはホームまでの道を急いだ。

簡単にホームを教える事もないが不自然にも振る舞えない。

この辺、微妙な感じだ。


ホームに帰ったキルはたぶんホームは突き止められてしまっただろうと推測した。


「クッキー、ゼペックさん。今、俺、教会の人間に呼び止められてその後でつけられてしまいました。明日以降此処にやってくるかもしれません。ごめんなさい。」


ゼペック爺さんが笑って答える。

「大丈夫じゃ。オモロいから揶揄って遊ぶとしよう。キル君が気にする様な事ではないわい。」


クッキーも笑顔で答える。

「大丈夫ですよ。まだ帰って来ていないって言えば良いだけですよね。任せて下さい。」


キルは2人に余計な事をさせてすまないなあと思うのだった。

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