159 近づく危険

生産者ギルドを出てホームに向けて歩くキルはつけてくる不審な気配を索敵で感じていた。


これって王の手のものか教会の手のものだよなあ?と考えながらこのままホームに行くのは問題があると思うのだった。


何とかして撒いたほうが良いな。


そうだ空を飛べば追いかけて来れないだろう。

キルは走り出し次の角を曲がるとフライで空に逃げるのだった。


2人の男が追いかけてきて角のところでキルを見失って困っているのを上空から見て相手を観察するキル。


僧侶の様な服を着ているところを見ると教会関係の男なのだろうと推測した。


「やっぱり俺をつけていた様だな。このまま空を飛んで帰れろう。」

キルはホームの側まで飛んで行ってからホームに帰った。


ホームには天剣の4人も宿泊している。

相談するならこの人たちかなあと思いグラに相談があると耳打ちした。

「後で相談に乗ってくれますか?」


「良いけど、、、俺にだけ?天剣全員?」


「できれば皆さんの意見を聞きたいんですけれど。」


「わかった。食後に君の部屋に行くよ。」


「ありがとうございます。」



クッキーが「ゴハンですよー!」


みんなが食堂に集まってきた。


食事を始めてもキルは心配で浮かない顔をしているのがメンバー達にもわかった様だ。


「キル先輩、何か心配事でもあるっすか?」


「帰ってきてから何かおかしいぞ。何があったのだ?」


「まー、キルさんにもー、色々ー、あるんでしょうーねえ。」とマリカ。


キルは話すべきか話さないほうが良いか考え込んだ。


「言い辛いのなら、言わなくても良いのですよ。」とクリス。


「イヤ、そういう事ではないんだけれど。まだ自分の考えがまとまっていなくてね。どうしたら良いかグラさん達に相談しようと思っていたんだけれど・・・・。」

キルは迷いながら話を続けた。


「生産者ギルドでね、俺に危険が迫っているかもしれないから逃げろって言われたんだ。」


皆んなが目をむいて表情が固まった。


「それはアレか、ジョブスクロールを作って売ったからじゃろう。」

ゼペック爺さんが事の確信をついた。


「そうです。王国の手の者と教会の手の者が、俺を連れて行こうとしている。そしてジョブスクロールを独り占めするためには何をするかわからない。美味しい話で誘ってもついて来ない様なら拉致して連れて行こうとするかもしれない・・・て。」


グラが腕を組んで口を開いた。

「その事で俺たちに相談しようとしていたのかい?」


「はい。どうしたら良いのかと思って。」



全員が押し黙って重い空気がその場を包んだ。



マリカが突然話し出す。

「美味しい話で誘ってくれるのならー、美味しい話ー受けちゃえばー、美味しいって事じゃないんですかー?」


「誘いを受けると俺はスクロールをそいつの為に沢山作らされて、沢山のスクロールを独り占めにした奴はきっと戦争を始めるんだ。そのために俺を自分のものにしたいんだ。俺は俺のせいで戦争が起きるのなんて嫌だな。」


「教会って事は宗教国家スタインブルクがキルを連れて行こうとしているんだね。」

とグラ。


「たぶんそうです。生産者ギルドでもそう言ってました。」


「確かにキル殿のジョブスクロールは高ランクの者をいくらでも作れるからな。全ての兵士を上級、中級にできたら圧倒的な戦力で他国を蹂躙できてしまうな。」

ホドが顎を摩る。


「上級が何人いようと聖級1人で如何とでもなるんじゃない。」

サキが口の端を釣り上げる。


「そうか・・・て事は俺たちって国家レベルの戦力を持ってるって事か。聖級4人のパーティーってそういう事だろう。なら俺たちでキル君を護ればいいのか。」

グラが明るい口調で言った。


ロムがグラの意見に反対する。

「王国を敵にまわすのは良くないぞ。イヤ、荒事は良くない。キル君の親兄弟親戚に至るまで累が及ぶ。」


「じゃあ、如何すれば良いのよ。」


「生産者ギルドでは逃げろって言ってました。」


「ただ逃げてもねえ〜。」

グラは眉間に皺を寄せる。


「いつ迄も追手に狙われるでしょうね。逃亡生活って苦しいに違いないわ。」

とサキ。


「なら、言うことをきいてスクロールを作るしかないんでしょうか。」


「ダメよ。この国が侵略国家になってしまうわ。何も知らない人が戦争に巻き込まれる。」


「ダメだなあ。」

グラもサキに賛同した。


レスキューハンズの8人の少女達は黙って大人達の話を聞いていた。

泣きそうな顔をした子もいる。


ゼペック爺さんが悪い顔をして口を開いた。

「死んだことにすれば良かろう。明日からまたダンジョンに潜ってそこで死んだ事にすれば良い。」


全員がゼペック爺さんを見て固まった。


「そうじゃな。ダンジョンの中なら死んだ事にすれば生きていても確かめられぬ。」


「フクラダンジョンの5階層で死んだ事にすれば確かめようにもできるのは聖級パーティーか王級以上の冒険者だけ。そこまでの大物が死亡確認だけの為に動くとは思えない。」


「死んだとして冒険者証をギルドに返還しておけば偽装工作は完了ね。」


「キル君は頃合いを見計らって暫く旅にでも出てから戻ってくれば良い。その時は名前を変えてね。冒険者ギルドには顔を出せなくはなるだろうけれどね。」


「クランは大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だ。俺たちが面倒を見るよ。ケーナちゃんとクリスちゃんに任せておけば問題ないしな。」


「お姉さんに任せなさい!ギルドがクラン認定を取り消そうとしたら圧をかけてあげるわ。ギルドの指名依頼はもう受けないってね。」


「それにそんな事は言わないだろう。あのケイトさんの肝いりでできたクランをギルドが潰すはずはないさ。」


「安心しました。グラさんサキさん、ロムさんホドさんクランのこと目にかけてあげて下さい。お願いします。クリス、ケーナ、俺がいない時は君達を中心に上手くやっていくんだよ。」


「わかったっす。でも必ず戻ってきて下さいっす。」

クリスは涙目で言葉が出ない様だった。


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