118 警護任務

生産者ギルドを後にしてホームに戻る方に歩いて行くと2ブロック先に冒険者ギルドが見える。


キルはすることもないので冒険者ギルドに寄ってみようかなと思った。

ここの所ギルドの依頼をこなしていないなあと思うキルだ。


ダンジョンでの討伐はギルドカードに記録が残るらしくその辺は不思議なシステムだと思う。

残るのはダンジョンの討伐だけでなく他も全てだが。

そういうわけである程度の強さはギルドカードを見れば冒険者ギルドの人間にはわかるらしい。

それを元に冒険者ランクが判定されるという事だった。


冒険者ギルドに入り掲示板の依頼を眺めていると後ろから声がかかった。

キルが振り向くと銀の翼の3人がそこにいた。


「やあ!キル君久しぶりだね。依頼を探してるのかい?」

話しかけてきたのはリーダーのコーナーだ。

「俺達これから警護の仕事が有るんだけれど良かったら手伝ってくれないかい?」


銀の翼、、Cランクの3人組パーティーで以前にギルドの荷馬車の護衛任務と盗賊狩りを一緒にやった事がある。その時のキルの実力を認めて声をかけてきたのだろう。


「警護ってこれからですか?」


「うん。これからある会議が有るんだがその会場の警備とか要人の警護みたいな仕事なんだけれどね。まあ会議中の襲撃とかに備えて助っ人的な感じで見回ってれば良い楽な仕事さ。募集が4人だから臨時で入ってくれると助かるんだ。どうかな?」


「会議の間だけてことは、時間は短いんですか?」


「ああ、1時から5時まで商業ギルドの会議場周りの警備で1万カーネルていう仕事だよ。結構割りのいい仕事だろう?」


別に稼ぎたいわけじゃあないが暇だからこういう仕事もいいかもしれないと思うキル。

「いいっすね。乗った。」


「お!ありがたいねえ。それじゃあさっそく依頼を受けようじゃあないか。」

キルはコーナーとブラン、ガンザと共に受付で依頼を受けた。


「キルさんを助っ人にしたんですね。コーナーさん見る目がありますね。彼今Bランクですよ。実力はAランク有りそうですしね。」と受付のケイトがコーナーを褒める。


「へ〜、キル君只者ではないと思ってたけれど、そんなに早く昇格していたんだね。声かけたのは正解だったかな。」

コーナーが見直したようにキルを見る。


「頼りにしてるぜ!」

キルの肩に背後から手を掛けてニヤリと笑うブラン。

茶髪の強面180cmのゴリマッチョの青い目の目じりが下がっている。

なんか怖いから揶揄わないで欲しいものだ。



商業ギルドに行き会議室の中に2人、入口のドアの前に2人警護のために立つ事になった。

キルは背中に大剣を背負った180cmのゴリマッチョと組んで入り口の前に立つ事になる。

顔に大きな傷を持つ白髪の無口な男ガンザだ。

赤く光る目が怖い。


この部屋に大商人が集まってギルドマスターと何やら交渉をするらしい。

商人ぽい男達がパラパラやって来て部屋に入って行く。

集まってくる商人に強そうな奴はいなかった。


会議が始まり時間が経っていく。

部屋の中から時々怒号が聞こえたりする。

利害が絡むと議論も白熱するものらしい。


キルは索敵をしながら建物の周りの気配にも気を配る。

建物の入り口のそばに20以上の気配があるがこれは商人達の護衛が待っているための様だ。

こいつらのためにこの場を襲おうとするのはやり難かろうと思うキル。

会議は危ない事も起きそうになく時間が過ぎて行った。


あと1時間程で会議も終わろうという時に裏の方から近づく気配。

特級に上がっている索敵によってそれがアサシンで有ることがわかる。


アサシンの気配が建物に侵入した。会議室の屋根裏に忍び込んで来る。

キルは会場内に入ってアサシンの下あたりに移動した。


突然部屋に入って来たキルを見て話が止まり視線がキルに集まる中、キルはストレージから槍を取り出し天井裏のアサシンを突く。

槍は天井を突き抜けてアサシンに突き刺さる、、、いや刺さっていない。


後ろに飛び退いたのか天井を突き破ってアサシンが部屋に落下しながら侵入、キルの槍はかわされたようだ。


アサシンが爆発物を投げつけようとしているのを目にしたキルは拡大シールドの魔法を唱える。

詠唱省略で素早く魔法のシールドが展開し会議の参加者の前に大きな魔力の盾となってアサシンの投げつけた爆発物の爆発から参加者を護った。


爆発の噴煙に紛れてアサシンは逃げて行く。

ほんの一瞬の出来事で有る。

凍りつく商人達がポカンと口を開けていた。


商業ギルドの建物は爆発によって壁が吹き飛んでいたが、参加者は拡大シールドによって怪我は無かった。


アサシンが誰を狙ってやって来たのか?あるいは商人全員をまとめて始末しに来たのかはわからない。

だがアサシンから参加者を守る事には成功した様に思えた。


アサシンを追いかける様なことはしなかったが、それは持ち場を離れると警護できなくなるから仕方がないだろう。


コーナーもブランも大きく穴の空いた壁の向こうに逃げたアサシンの方を見やっていたがアサシンはもう遠くに逃れていた。


「皆さん無事ですか?」キルが口を開く。


「危なかった。」「なんだったんだ、今のは」「奴を追わないのか?」「死ぬ所だったな!」などという言葉がとびかう。


商業ギルドのマスターがキルに近づきその手を握った。

「ありがとう。助かったよ。」


索敵により近くに敵がいないことはわかっているのでキルは笑って答える。

「助けられて良かった。ついさっきこの建物に入って来たところを見ると諜報活動が目的ではなかったと思いますよ。」


外にいた商人の護衛達が部屋に入ろうとして外が騒がしい。

ガンザが1人でドアを塞いでいるのだろう。

怪しい奴が混じって入ってしまったら危険なのだ。


コーナーがその対応のために部屋から出て行った。

「怪我人はいない。全員無事だから慌てないで待ってくれ、」

外からコーナーの声が響いてくる。


とんだ大事件に発展してしまったがとにかく警護の任務は大成功と言っても良かっただろう。

この事件で銀の翼の名は商人達の間で有名になったのは言うまでもない。

銀の翼のキルの名もまた商人の間では有名になった。ちょっと間違っているけれども。





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商業ギルドで行われる会議が舞台で起きた事件


この会議は定例会議は年一回、臨時会議は随時要請の声が基準に達した時(ほぼ無い、過半数に会員の声)に開かれて商品の価格設定(小売値、卸値)などにについて話し合われるものです。


そして最終的には生産者ギルド、商業ギルド、冒険者ギルドの話し合いによって物の値段が決まります。


この世界はギルド中心の統制経済的な世界という事です。


こうなっているのはそうなるまでの価格トラブルによる歴史があったわけです。

店同士の価格差による争いをなくす為に商業ギルド内で統一価格が設定されました。

ギルド間の仕入れ値トラブルにより(冒険者が商業ギルドに売りに行く。生産者が商業ギルドに売りに行くなど。)各ギルド間の話し合い、調整も行われるようになりました。勿論小売ベース(ギルド未加入店も含む)では裏価格を実施している所もあるでしょうしパチモノを売っているところもあるでしょう。スクロールとかはパチモノの多そうな商品ですのでスクロールの信用はかなり損なわれている世界です。


今回の舞台の商業ギルド内の会議は商業ギルド内の様々な案を決める場です。

(取り扱いの少ないスクロールの値段とかは話題に上る事はないでしょうが。)

これらを持ち寄って商人ギルド、生産者ギルド、冒険者ギルドの間でギルド間会議が開かれ、数度の話し合いが行われて価格変更が行われるのがこの世界です。

 

商業ギルド内会議で話し合われる価格案は巨額の利益に関わる為暴力的な事件が度々起こっているようです。



昔日本では米の価格が国によって決められていました。(今でこそ自由化していますが)

そういう事を考えて今の日本ような高度な経済システムよりもまったりとした価格決定システムの方が異世界的と考えました。


あ、日本の医療報酬とかは年に1回これをするといくらとか決められるようですね。時には年数回になる事もあるのでしょうか?




最近の物価の高騰、年に何度も値段が上がる商品が沢山。何とかして欲しい物ですね。


ですが年に数%の値上がりが有るのが望ましい状態とされているそうです。

それは、ものは腐ったり、傷んだり古くなったりして価値が損なわれるのに、お金はそのままの価値、100円はいつまで経っても100円だからです。

その不公平がなくなるように年数%のお金の価値の毀損(インフレ)が起きる方が健全という事らしいです。

そうで無いとお金を溜め込んでしまい、お金が流通の道具としてでは無く、貯蓄の道具になってしまうからです。お金は流通の為の道具というのが第一の目的ですのでその目的がキチンと機能する為には軽いインフレが必要悪という事なのですね。

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