102 ルキアとモレノ 2

新メンバーのルキアとモレノを加え8人体制となった新生緑の草原。

2人の訓練は順調な滑り出しと言えた。


2日目、3日目は小物を倒して討伐経験値を稼ぎ、4日目には星2のジョブスクロールを買ってもらい中級盾使い、槍使いに進化してもらう。4日目の獲物はモーモウに格上げだ。


槍使いのモレノだけなら2日目3日目でもモーモウを倒せただろうが盾使いのルキアはモーモウの突進を受け続けるのは力不足。ステータスが上がってからのチャレンジが安全だ。


4日目の付き添いは万全を期してキルが務める。ルキアがダメージを蓄積させた時にはキルがヒール、ハイヒールで回復するためだ。ケーナや他の4人にもハイヒールを覚えてもらおうと思うキルだった。


ルキアとモレノにもまずはヒールだけでも覚えさせることにした。特にルキアに回復は必要だし有効だ。盾で敵の攻撃を受ける盾使いはダメージを受ける事も多い訳だがそれを自らの魔法で回復できればエンドレスで戦い続けられる。いわゆる回復盾という奴だ。



モレノはモーモウに流星槍、ショットランスを使って余裕で倒していく。

ルキアはモーモウの突進をシールドバッシュで数回受けてやっと倒すという感じだ。モーモウの攻撃を受けるルキアも体力の消耗は激しい。特に衝撃を受け止める足腰にはかなりの負担がかかる。


そういう時にヒールのできる回復盾は強みを発揮するのだ。戦闘継続力が格段に違ってくる訳だ。もっともMPは限られている訳だが。


4、5、6日目はモーモウ狩りに明け暮れた。7日目は休日にする。次はいよいよライガー狩りだ。2人もだいぶ自信を付けている。ライガー狩りに備えて身体強化のスキルスクロール各種を買ってもらった。


生産者ギルドに行き、7日の間に作った⭐︎2のジョブスクロールは生産者ギルドで買い取ってもらた。また作った分は買い取ってくれるそうだ。


続けて商業ギルドに行き高レベルの魔石が売りに出ていないかチェックをする。商業ギルドの職員がキルを見てニコニコ顔で寄ってきた。オススメのものがあると言う。

鎧竜の魔石が100万カーネルで売り出されていた。迷わず購入する。


鎧竜は全身を鎧のような硬い皮膚に守られた強力な防御力を持つ大型魔物で、動きこそ素早くはないが倒すことはなかなか難しい。その魔石がギルドにあること自体が珍しく手に入れられたことは幸運と言えた。


早速工房に戻って⭐︎4のジョブスクロールを作ろうと試みる。Aランクの特級剣士の紋様だけならゴブリン騒動の時に見た事があった。


紋様を思い浮かべ魔力を流そうとしたが紋様は刻まれなかった。魔石に問題があるのではなく、紋様に魔力を流せない感じで、スクロール職人としての能力が足りていないように感じた。


特級スクロール職人では特級のジョブスクロールは作れないのかもしれない。それがやってみての感覚だった。おそらく自分のランクより下のランクのジョブスクロールしか作れないのだ。


仕方がないので⭐︎3のジョブスクロールをMPが無くなるまで21個作った。今は7種類の文様がわかっていたので3つずつ7種のジョブで作る。剣士、盾使い、槍使い、弓使い、魔術師、聖職者、拳闘士、の7種類だ。



工房の前に馬車が止まり誰かが降りてくる気配がした。珍しく客が来たのかなと思うキル。外で日向ボッコをしていたゼペック爺さんが動き出したようだ。キルも外に出るべきか?とおもう。


工房の扉が開いてゼペック爺さんの後から入ってきたのは貴族にお嬢様の服装ではあるが、クリスとその執事のギルバートだった。


「キルさん。お久しぶりです。わたくしは、わたしは戻って参りました。またわたしと冒険者をしていただけますよね。」とクリスがササと駆け寄りキルの両手を握る。


クリスの美しさに驚きながらも顔を赤らめるキル。

「久しぶりだね。クリス。また冒険者をしても良くなったのかい?」


クリスの後ろで執事のギルバートがキルを睨んでいた。

アレ、これは問題ありなのかな?と思うキルだった。


「はい。また冒険者をできるようになりました。お父様の許しをいただきました。」


「ウホーン!」後ろから執事のギルバートが咳払いしながら話に割り込む。

「ただし条件が有ります。」


「条件?」とキルは首を傾げる。


「大丈夫よ。わたしが一流の冒険者になるということが条件なの。わたし、必ず一流の冒険者になるから。」とクリス。


「正しくは、1月の内に上級職、つまり上級魔術師になるというのが条件です。そのくらいでなければ一流の冒険者にはなれないというのが侯爵様のお言葉です。」キルを睨みながらギルバートが言った。


「キル殿、キル殿は、クリスチーナお嬢様が1月の内に上級魔術師になれるとお思いか?1月の間だけ思い残すことのないように冒険者をさせてあげようというのが侯爵様のお考えと思いますよ。」とギルバート。


「キルさん、わたし、なれますよね。なれますよね上級魔術師に。」食い入るように言うクリス。


「大丈夫だよ。クリスなら必ず上級魔術師になれるとも。俺が必ず上級魔術師にしてあげるよ。」太鼓判を押すキル。クリスなら2週間で上級魔術師になれると思うキルだった。


「何を馬鹿な、、上級魔術師などの上級職は上位1割しかいないと聞く。それに1月でなるなんて有りえないことでしょう。」とギルバートが水を差す。


「イエ!それはクリスの才能を知らないからそう言うのですよ。わたしが保証しますよ。クリスは必ず1月で上級魔術師になれますよ。」


「ハハ、わかりました。お嬢様、よろしかったですね。キル殿のお墨付きを頂きましたぞ。それでは、明日から1月の間にこのギルバートと共にキル殿のパーティーに同行させていただきましょう。」


ギルバートは戦えるのかと思ってキルが彼の持つジョブの紋様を確認するとなんと上級騎士ではないか。かなり強い人だったのだなと思うキルだった。


「ギルバートさん、俺がクリスを上級魔術師にして見せますので俺の指導の邪魔はしないでください。特にクリスの代わりに戦うようなことはクリスの成長を妨げますので彼女が魔物を倒すのを横取りしないように。」


「成程。とは言えお嬢様を御守りするのはわたしの役目。」とギルバート。


「守るのは構いませんが彼女はたくさん魔物を倒す必要がありますのでそれを踏まえて邪魔はなさらないようにお願いします。」とキルが釘を刺した。


そしてクリスに向かってキルは言った。

「必要なスクロールはドンドン買ってもらって構わないよね。」


「はい。大丈夫です。お金はギルバートに請求してください。」とクリス。


「大丈夫だよ。貸しておく。日々の稼ぎが貯まったら返済してもらうから。明日はギルド前に集合で、ライガーを狩りにいくから。フライはできたよね。?」とキル。


「大丈夫。できるわ。」


「わたしはできませぬぞ。」とギルバート。


「じゃあ、これで覚えてください。」キルはギルバートにフライのスキルスクロールを渡した。ギルバートはそのスクロールを使いフライを覚えて感激する。


「これでわたしもフライで飛ぶ事ができるようになったのですか?信じられませんね。」と言いながら試しに浮いてみるギルバート。「なんと素晴らしい。このような事が可能とは!」


多くの人間がスクロールと言って連想するのは魔法スクロールで1度魔法を発動して消滅する使い捨てのスクロールだが、スキルスクロールのように魔法やアーツを身につけさせるスクロールは馴染みが薄いのだ。


ギルバートは何度も浮いては降り浮いては降りを繰り返す。そしてギルバートはキラキラと輝く眼差しでキルを見つめるのだった。


さっきまで俺を睨みつけていたくせに きもいよ、、、と思うキル。

だがギルバートのキルに対する評価はグーンと上がったのは間違いなかった。


「クリスには身体強化のスキルスクロール各種を覚えてもらうよ。攻撃力強化 防御力強化 腕力強化 素早さ強化 のスキルスクロールを渡すから使ってね。」


キルはクリスにスクロールを渡した。クリスはスクロールを使って身体強化のアーツを覚えたのだった。ギルバートのキルに対する評価は益々上がるのだった。

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