70 村の依頼

ケーナとクルリン村に向かうキル。歩きなので時間がかかる。


「馬に乗れば早いのに、歩きってのもかったるいっすね。」とケーナ。


「馬がないから仕方ないし、途中で採集をしながら行くからケーナも覚えると良いぞ。こういう時は普通そういうもんだからな。行きがけの駄賃に薬草だの木の実だの役立つものを摘んでいくのさ。」


「へ〜、、、面白そうっすね。見つけながら歩くっすね?」


「まあな、稼ぎがない時の生活の知恵という奴だな。知識として知っておくことは無駄ではないからな。」


「でも〜道端のはみんな摘まれてるんじゃないっすかあ?」とケーナ。


確かにそういう傾向はある。時々鋭いことを言うケーナである。


「そうだな〜、そう言うこともあるかもな。」そう言いながらキルはどんどん歩いて進んだ。


ケーナはキルについて行く。



しばらく歩いた後で、キルは人が入った跡の無さそうな森を見つけた。




「この森は人が入った跡があまり無さそうだからこの森でひと稼ぎして行こう。」


「ここに入るんすね。良いっすよ。何かありそうなんっすか?」


「人が入った跡があまり無さそうだから何かあるかもしれないよな。」


キルは草をかき分けて森の中に入って行く。森の中に入ると光がやや遮られて、下草は少なくなっている。


ケーナもキルに続いて草をかき分けて森の入ると中は草の背丈が低く歩き易いのがわかる。「中と外では草の高さが違うんすね。」


「一度中に入ってしまえば中は意外と歩き易いものさ。獣道も有るしな。光の当たり方の違いで森の中の草はそれほど背の高いものは多くないのさ。」


「まあ、知ってたっすけどね。自分猟師の子っすから子供の頃から山歩きだったっす。

山に生えてる薬草とかそこそこ知ってるっすよ。」


「そうか。ならわざわざ教えることもないか、実力の程を見せてもらおうか。俺より物知りかもしれないな。俺は冒険者としてはまだ2年生だからな。」


「山の中と平地林では生えている植物は違うかもしれないっすよ。だから教えはすなおにきくっす。」


「そうか、土地土地によって取れるものは違うかもしれんしな。俺の知ってることは教えてやるからケーナも俺に教えてくれよ。」


2人は森の中を目的地方向に歩きながら役に立つ植物を摘んでいった。回復草、魔力草、毒を持つ草、食用の草、キノコ、木の実、売れそうなものは取りながらすすんだ。


1袋ほど取れたところで森を出て歩きやすい道を行く。


「飛んでいったらまずいっすか?その方が早く着くっす。」歩く事に飽きたのかケーナが飛びたいと言い出す。当然の要望だ。行きがけの駄賃は稼いだし飛んでいっても構わないなとキルも思う。


「そうだな、飛ぶことにしよう。」とキル。その方が確かに早く着くしケーナと一緒に飛んで彼女の飛行能力を知っておくこともパーティーメンバーとしては必要な事だろう。


「飛ぶぞ、ついて来てね。」キルはフライを唱えて(無詠唱)空に舞った。ケーナもキルの後に続く。採集物を入れた袋はキルが担いでいる。


空を飛んだおかげで昼頃に着く予定が11時頃にクルリン村に到着した。


村長にあって討伐依頼について詳細を確かめた。


「狼の群れ退治と聞いています。報酬は5万カーネルと狩った狼の素材全て、で良いですか?」尋ねるキル。


「その通りです。」と村長。


「狼と言っても色々な種類がいますがどの狼でしょうか? ウルフで良いんですよね。あの依頼だとそう取れましたが?」


「わしは〜、狼の種類とかはようわからんのじゃ〜。」村長がなぜか歯切れの悪い答えを返す。何か怪しい。


「そうですか?で何匹くらいの群れですか?」不審に思いながらも質問を続けるキル。


「それも夜にやって来るのでよくわからんがけっこう多いと思うのじゃ。」


「被害はどのくらい有るんですか?」


「馬とか牛とか相当やられとる。一晩に2〜3頭やられるんじゃ。」


かなり大きな群れではないかと推測するキル。コレは夜に待ち伏せしても数で押し切られそうだ。昼間よく見える状態で空撃した方が良いかもしれないと考えたキルである。


「どちらから来るかわかりますか?」


「わからんが、、、北の森に住み着いてるんじゃないかと思うのじゃ。」


「明るいうちに手をつけようと思います。数が多そうですので見えるうちに狩りを始めます。」キルはそう言うとケーナと一緒に北の森のに向かった。



森が索敵範囲に入ると確かに大きなウルフの群れが感じられた。30以上は居そうだ。そして群れのボスらしい個体はどうやら上位種のように他と比べ物にならないくらい強そうだ。おそらくグレートウルフだろう。昼間にチェックして良かったと思うキル。


「ケーナ、ウルフの数は30以上はいる大きな群れが相手だぞ。ボスは上位種のグレートウルフに違いない。上空から攻撃した方が安全だと思うんだがどうだ?」


「30以上の群れっすか? ヤバいほどでかい群れっすね。報酬が安すぎません?」


「貧乏な村なんだろうから仕方がないさ。そのぶん素材はきっちりもらわないとな。」


「森から持って帰るのが大変っすね。やっぱり村で待ち伏せした方が良いっすよ。」


確かにその方が良いようだ。森で倒しても素材を運べずに捨てて行く事になり報酬が少なくなりすぎる。


元々村に来る狼の群れを退治する事が依頼なのだし、今見つけた群れと違った群れが犯人という事だってないとは限らない。その時は大きな無駄働きになってしまうわけだ。


そこで夕方から夜にかけて村を襲って来た所を当初の予定通りに返り討ちにする事に作戦を戻すようにする。2度目の作戦変更だ。


村に戻って村長に下見の結果を話し、大きな群れがいた事やその群れにはグレートウルフがいることも話した。一晩で全滅させられない時は次の日も作戦を延長することもあり得ると話しておく。


そしてキルとケーナは狼の来るのを待った。

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