3、ゼペックとの出会い 1
ゼペックの工房の前で覚悟を決めるキル。
でも此処にきて中に入る踏ん切りがなかなかつかない。
ボロボロで何か薄気味悪い、まるでお化け屋敷のような雰囲気を醸しているゼペックの工房には誰しも足を踏み入れるのには勇気がいりそうだ。
此処まできたんだ、此処で帰ったら無駄足になってしまう。
ダメならダメ、取り敢えず見てみない事には始まらない。
そっとドアを少しだけ開けて中を覗き見るキル。
中は思いのほか薄暗い。
「ごめんください、此処はゼペックさんの工房で良かったですか?」小さな声でキルは声をかけた。
なんの反応も無い。
あれ、誰もいないのかな?
もう少しドアを開けて半身を入れるキル。
「ごめんください?誰もいませんか?」反応は無い。
そろそろと中に入りいつの間にかしっかり店の中に入ってしまっていた。
「ゼペックさんはいませんか〜?」
普通の声に戻っているキルである。
恐る恐る暗い部屋の中を見回してみる。
「ヒエ〜〜!」キルは後ろに飛び退いてドアに背中をぶつけた。
奥の机に突っ伏している人影、死体?死んでるのか?ゴクリと唾を飲む。
「ゼペックさ〜ん、ゼペックさんですか〜?」震える手を前に出しながら恐る恐る近づき生死の確認をしなくてはと思う。
人の死体を見るのなんて何度でもあったが、暗闇の中というのは恐怖心を大きくするものなのか。
それとも骸骨のようにガリガリに痩せた腕、身体が、ミイラのように見えるから恐怖しているのか。
キルの手が触れようとしたその瞬間に寝ていた骸骨が首を上げた。
「ヒエ〜!」飛び退き防御の態勢をとるキル。
「ナンジャイ。あんた誰?」骸骨、いやガリガリに痩せた男が声を発した。
生きていたのだ。
ただのジジイである。
キルの恐怖心がすうーっと消えて行った。
「あ、あの、俺はキルと言います。ギルドで聞いてやってきました。此処がゼペックさんの工房で良かったですか?」
「ああ。ワシがゼペックじゃが?スクロールを買いに来たのか?」
不審そうに聞くゼペック。
「イエ………自分、スクロール職人のギフトを持ってまして。
それでスクロール職人になろうかなあと思ったわけです」
キルは恥ずかしそうにやや小さめの声でオドオドしながら返事をした。
「どうすれば成れるか生産者ギルドで聞いたらこの町でスクロール職人はゼペックさんだけだと教わって………弟子入り………したいかな………なんて」
「アハハハハ!」突然笑い出すゼペック。
「イヤ、こりゃ傑作じゃな!このワシに弟子入りじゃと。
バカかお前!スクロール職人なんてなってどうするんじゃ。
食って行けんぞ。
作っても全然売れないんじゃからな!在庫が貯まるは、材料費が工面できんは、弟子なんて託ったら食わせて行けんぞ!」
下からキルを覗き込みながら続けるゼペック。
「弟子になっても自分の食い扶持は自分で稼げよ、食わしてはやれん。
ついでにワシのいう仕事は文句を言わずにやれよ!
工房の掃除とか使いっ走りとか。
しかしギフトがスクロール職人とはのう。
可哀想な奴じゃ。ワシと同じギフトとはのう」
「はい!やります」
場の雰囲気で抵抗できずに条件丸呑みで返事をしてしまってから後悔し始めるキル。
あれ〜これで良かったのかな〜。
この人ロクデナシなんだっけ〜。
鼻からロクデナシ感漏れ出てるな〜。
ロクデナシじゃなかったか、変人で怠け者って言ってたんだっけ。
そうそう悪い人だとは言って無かったよ。
そこまでは言って無かった。
「じゃあ、カーテン開けて部屋の掃除をしてくれや」
「は、はいわかりました。え〜と道具は〜?」
カーテンを開けて掃除道具の場所を確認するキル。
カーテンを開けたら暗かった部屋に光が差し込んできた。
無言で掃除道具の場所を指差すゼペック。
キルはその道具で掃除を始めるのだった。
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