2 生産者ギルドと鍛治師のバッカス
幼馴染2人の背中を見送ったキル、 1人になると人間淋しくなったりもする。
さてこれからどうしたものかと考える。
2人は『大地の護り手』のホームにでも行ってしまったのだろうと思う。
冒険者ギルドの片隅でキルは暫く考えた後、重い腰を上げバンの言ったように生産者ギルドに顔を出す事にした。
自分のギフトはスクロール職人である。
スクロールを買おうとすればそれなりに高い値段が付いている。
だがあまりたくさん売れているとも思えない商品だ。
事実自分もケラもバンもスクロールを買ったことなどないのだ。
はて?スクロール職人って生活が成り立つのだろうか?そんなことを考えながらキルは生産者ギルドに向かった。
まずはスクロール職人ってどうやったらなれるのか?
スクロールを作った事など一度もないし作り方もわからない。
生産者ギルドに行ったら聞いてみよう。
やることを見つけていくぶん気が晴れたのかトコトコと歩いて行くキルであった。
生産者ギルドは冒険者ギルドから1ブロック程のところにあってそれほど離れているわけではない。キルはすぐに生産者ギルドに着いた。
冒険者ギルドの建物と比べれば小さくて古ぼけた建物である。間口も小さい。当然中に入っても冒険者ギルドほどの賑わいは見られない。キルの他には2人職人らしき人と2つある窓口の片方に受付が1人と奥に数人職員が居る感じである。
1人が帰って行き1人が窓口で話をしている。
キルは順番待ちをしようと思っていると奥にいたオッさんが声をかけてくれた。
「どうぞこっちへ。なんのようかね?」
空いていた窓口に呼ばれてオッさんの前にゆくキル。
「実は自分、ギフトがスクロール職人なんですけど、スクロール職人ってどうしたらなれるんでしょうね?」
「スクロール職人? ギフトとしては珍しいものかもな」頭のハゲた小太りのオッさん職員がそう答える。
「スクロールを作っている職人はこのギルドには1人しかいないな。変わり者だがそいつの所に行って弟子にでもしてもらえばいいのかな?俺にもわからん。とにかくスクロールが作れればスクロール職人なんだろう。売り物になるやつが作れればな」
そう言うとオッさんは後ろを振り返り中の職員に声をかけた。
「ゼペックじじいの工房何処にあるか知ってるか?あいつ時々スクロール納品するよなあ?」
「スクロールはたまに納品するけど工房の場所までは知らねーなあ」
奥から返事が聞こえてきた」
「そうか、知らねーか、そうだよなあ」オッさんはキルの方を向き直ると
「わりーな ボウズ。ゼペックてえジジイが作れそうだとは思うんだが工房の場所までは教えてやれねーわ。自分で探してくれや」
すると横にいた職人のガッチリした身体つきのジジイが声をかけた。
「ゼペックのジジイのとこなら俺が知ってるぜ。帰り道だからついてくるかい?」
キルは諦めかけていた所に光明が刺した事に喜んで「ぜひお願いします!」と答えるのだった。
「だけどもゼペックのジジイに弟子入りは考えもんだぜ、あいつは変人の上に怠け者だから、弟子なんて取らないと思うし、取っても何も教えてくれねーと思うぜ。ましてスクロールなんて作ってもそうは品物が捌けねーしな。」髭もじゃで背の低い職人が言った。
「自分もギフトがスクロール職人なんで会うだけ会ってみようと思います。案内してもらってもいいですかね?」
「じゃあ、俺に付いてきなよ。工房の前を通ったら教えてやるからな」
え〜、変人で怠け者のジジイに弟子入りしないといけないのか〜。しかもスクロールはあんまり売れる商品じゃあないと。
そうだよなあ〜、値段が高いから1つ売れればけっこう儲かるのかなあ?
でも誰が買うんだろう?
例えばファイヤーボールのスクロールがあったとして魔法使いは買うわけがないし、剣士がもしもの時のために買うか?買わんよなあ?
少なくとも試し撃ちして威力がわからんと頼りにはしづらいもんなあ?
試し撃ちするには高すぎるしなあ。
そんな事を考えながらキルは髭もじゃのジジイ職人について行った。
「俺は鍛治師をやってるバッカスてもんだ。
ハズレギフトにはこだわらね〜方がいいと思うぜ。
ゼペックを師匠になんて場合は特にな」
歩きながらバッカスが言った。
ハズレギフトって言った!
今ハズレギフトって言ったよこの人。
マジかよ!
俺のギフトは生産職の中でもハズレかよ。
ガックリと肩を落としてトボトボとついて行くキルである。
「此処だぜ」
バッカスが指差す先にはブキミでボロい小さな店舗があった。
キルを見るバッカスの目に哀れみの色が浮かんでいた。
「案内してくれて有難うございます。今度剣を買うときはバッカスさんの打った剣を買います」
「そうかい。俺の剣は高いぜ。じゃあな」
バッカスはそう言うと歩いて行ってしまった。
バッカスは本当にキルが買いに来るとは思っていない様だ。
バッカスがいってしまうのを見送って、キルは怪しげなボロ小屋の前で1人覚悟を決めるのだった。
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