第21話 目撃
石崎綾葉は、殺人事件を目撃してしまった。
文化祭を二週間後に控えた十月中旬の日曜日の午後だったが、人生二十一回目の誕生日に一人修志館五階の生命科学部の研究室に出向き、遺伝子に関するNotchシグナリングの研究レポートの目処を付け、帰り支度を終えたときだった。
猛烈な反撃にあい、殺されてしまった男は馬原進太郎。
綾葉がいつだったか、漫画文化論の試験会場でカンニング行為を見つけてしまった老人の学生だった。
試験が終わった後、教室の床に落とした学生証を偶然に拾ったとき、その老人の名前を知ったのだった。
殺人者の名前は知らなかったが、何日か前、立心館の脇で馬原のカンニングを目撃してしまったことを相談しようとして、ほんの少しだが言葉を交わした男に違いない。
結局、そのときは友達の邪魔がはいったこともあって、告げ口するような後ろめたさをふと覚え言いそびれてしまったが。
心の準備をする間もなく、無理やりに見せられてしまった殺人。
人の死をまのあたりにするのは、初めての経験だった。
とんでもない瞬間を目撃しちゃったかも。
反射的に部屋の隅に身を潜めたから、向うには見られていないはず。
それにしても、せっかくのバースデーにこんなことって・・・
それに、たしか、あそこだったはず。
この前、殺人があった場所って。
ええっ、また!
とても冷静になどなれなかった。
綾葉は、何者かに追われるようにその研究室を飛び出した。
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