第18話 結論
「さあ、これで、やはり犯人は、エレベーターではなく階段を利用したことが証明されたわけです。
ちなみに、殺人現場である立心館の五〇三号室から走って移動し、階段を利用して友学館のゴミ箱にたどり着くまでは一分二十秒でした。
犯行を終えた犯人は二時三十分までには五〇三号室を飛び出して、階段を駆け下り、ゴミ箱が撤去される二時三十一分五十秒の直前に凶器を捨てたことになるのです。
さあ、僕の推理は、いよいよ大詰めを迎えました」
流藤は嬉々とした表情で言葉をつないだ。
「さて、さきほど話したエレベーターの証言をしてくれた人が、僕の推理を導く重大な証言をしてくれました。
彼は、どんな話をしてくれたと思いますか?」
「・・・」
「彼は、あの時間帯に階段を下りてきたのは教員だけだった、と断言しました。
これが、決定的な手がかりとなったのです。
この証言をしてくれた人は、じいさん連中、なんて言ってましたが、この特別任用教授の先生方はすでに六人全員の容疑が晴れているのです。
しかし、エレベーターの利用による逃走が否定された以上、犯人は階段で下りて来たに違いありません。
すると、これは一体、どういうことなのか。
ところが、ここにはなんらの矛盾もありません。
なぜなら、彼は階段を下りてきたのは七人だったと断言したからです。
そうです、もう、おわかりでしょう?
彼はこの大学にあまり馴染みがないため、すべての教員の顔を知っているわけではなかった。
しかし、彼が目にした全員が、いわゆる『じいさん』だったため、階段で下りてきたのは教員だけだった、と判断してしまったのです。
つまり、階段を下りてきた人物の中に、教員ではない人物がいました。
そうなのです。七マイナス六イコール一。
その一人とは、自ら階段を下りてきたことを認めた人物、つまり、馬原進太郎さん、あなたが犯人です!」
洪作は、人差し指を相手の顔に突きつけることこそしなかったが、まさにドラマや小説の名探偵になった気分で浮かれていた。
目の前の男は、服装のみならず言動や動作も若々しくあったが、頭上を覆う白髪やしわが刻まれたその顔は、紛れもなく老人だった。
「このことを、警察に話すのか」と馬原は、抑揚の欠けた口調で呟くように言った。
洪作は、ゆっくりと首を横に振る。
「いいえ、まさか。そんなつもりはありません。
警察だなんて。
僕はただ、自分の推理を一つの結論として完結させたかったのです。
そして、それをあなたに聞いてもらいたかった。
僕の思いはかなえられたのです。
もうこれ以上、望むことはありません。
それに、あなたには全く関係のないことですが、僕の研究論文が学内の審査機関に認められましてね、最優秀論文に選ばれたのですよ。
つまり、僕は徴兵から逃れることができるわけなんです!
まだしばらくの間、このまま学生であり続けることができる。
また、探偵の真似ごとができたら、なんてことも考えているんですよ」
「ほう、徴兵をね、それは、よかった。おめでとう」
馬原の言葉には、その内容とは裏腹に、どことなく嘲るようなニュアンスが含まれていた。
「というわけで、自首するなり、このまま警察の捜査を見守るなり、お好きにどうぞ。それでは、さようなら」
そう締めくくると、洪作は軽く手を振り、颯爽とした足取りで馬原を置き去りにした。
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