第15話 仮定①の検証
「限定ではない、特定できるんですよ。
まあ、最後まで聞いてください。
まず、仮定の①はこうです。
①僕が一階から六階へ上昇してきたエレベーターに乗る前に、犯人がエレベーターを利用し五階から一階にすでに下りていたと仮定する場合。
実際あのとき僕は、エレベーターが五階から一気に一階へ降下したのを目撃していました。
僕はそのとき音量を小さくして音楽を聴いていたのですが、エレベーターが一階に停止したとき、ちょうどその曲のイントロが始まったのです。
そして、しばらくしてボタンを押した瞬間、先ほども言いましたとおりチャイムが鳴り始め、一階に停止していたエレベーターが動き始めたけですが、それと同時にその曲の歌唱パートが始まったのです。
その曲は全体で三分三十七秒の長さで、イントロを除けば、一分四十秒なのです。
従って、イントロの長さはいたって簡単な引き算、三分三十七秒マイナス一分四十秒イコール一分五十七秒ということになります。
つまり、一分五十七秒、エレベーターは一階で停止していたのです。
そして、エレベーターが一階で停止する前、犯人が五階から一階に下りるのにかかる時間は、四階分の移動ですから、さきほどお話ししたとおり十四秒となります。
停止していた一分五十七秒プラス十四秒は、二分十一秒です。
つまり、僕が六階でエレベーターのボタンを押した午後二時三十分00秒、その二分十一秒前に、五階のエレベーターは一階に向けて動き出し、十四秒かけて一階に降り、一階で一分五十七秒間停止していたわけです。
では、その午後二時三十分00秒の二分十一秒前とは、何時何分を指すのか。
それは、午後二時二七分四十九秒を指します。
つまり、犯人は、午後二時二七分四十九秒という時刻には、五階のエレベーターに到達していなければならないのです。
ちなみに、各移動にかかる秒数の誤差として最大で0.九十九を加算すれば、その時刻は午後二時二七分四十九秒よりさらに前の時刻になるのです。
一方、犯行時刻は、被害者が嵌めていた腕時計の時刻から、午後二時二十八分であることがわかっています。
ということは、犯人が犯行後、午後二時二十七分四十九秒の時点でエレベーターに到着することはありえません。
従いまして、僕が一階から六階へ上昇してきたエレベーターに乗る前に、五階からエレベーターに乗り一階に下りた人物が誰であろうと、その人物は犯人ではありえません」
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