第18話 再び中央広場
翌日はちょうど十二時頃に洪作は寝床から起き上がり、カップラーメンで簡単に昼食を済ませると、文学概論の講義の開始に間に合うように、一時ちょっと前に哲也と一緒に寺石荘を出た。
今年の文学概論のテーマは推理小説だった。
その教室に美奈も顔を出していて、授業が終わると、だれがいうともなく三人の足は中央広場に向かった。
円形の広場の上空では、雲間から太陽が顏を覗かせ、穏やかで柔らかい光が地上にまで届いていた。
ベンチに腰を落ち着けたところで、授業中は熱心に講師の言葉に耳を傾けていた哲也が、待ち兼ねたように真っ先に口を開いた。
「ねえねえ、美奈ちゃん、聞いてよ。
昨日さ、俺の原稿をくすねた犯人が見つかったんだよ」
「えっ! ほんとに?
犯人が出てきたの?」
アイスコーヒーの満たされた紙コップに、鮮やかな赤い小さな唇を近づけていた美奈は、びっくりして左隣の哲也にくるりと体を向けた。
「そうなんだよ。犯人は永井とかいう、うちの下宿にたまに現れていた新興宗教の勧誘員だったんだ」
「新興宗教の? 永井? へえー」
「でもね、原稿は戻ってこないよ。
そいつが処分したらしくてね。
今年応募できないのはオレとしては悔しくてならないんだが、また書き直すことにしたよ」
「あら、そう。頑張ってね。
へえ、ほんとに犯人が見つかったんだ・・・」
「だって犯人の告白まで手に入れたんだから間違いない。
永井さんが犯人ていうのは、ほんとのことだよ。
なあ、洪作?」
「いや、ウソだよ」と、洪作は平然と事も無げに言って、「犯人は永井さんじゃない。犯人は君だよ、斉藤美奈さん」
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