第14話 ネクタイ

 洪作は哲也とは別れて図書館に向かった。

 すると、図書館の入口で声をかけられた。

「洪作くん、また会ったね」

 振り返ると美奈だった。

「ちょっと、時間ある?」

 洪作は迷った。

 東京の都心部出身でおまけに誰もが認めるであろう美人の美奈には、なんとなく臆するところがあって、洪作は二人きりでの会話を避けるようなところがあった。

 だが、思いのほか真剣な美奈の眼差しに気おされるように、洪作はうなずいた。

 再び中央広場のベンチに並んで腰をかけた。

「洪作くんて、ひやしあめ、好きだよね」

 洪作の手元の瓶に目を落としながら、何か言いたそうな美奈の言葉には取り合わずに、

「なんか、話でもあるの?」

「うん、あのね、来月、お兄ちゃんの誕生日なんだけど、今就職活動中なの。

 だから、ネクタイでもプレゼントしようかなって」

 なにかの予感めいたものを感じながら、洪作は短く返した。

「それは、喜ぶんじゃない?」

「でしょ、でしょ。

 それでね、どんなネクタイが似合うのか、モデルになってくれる人がいたらいいなって」

「・・・」

「今度の土曜日、アバンティに付き合ってくれないかな?」

「僕なんかダメだよ、美奈ちゃんのお兄さんだから、きっとカッコイイんだろうなあ。

 僕なんか全然役不足ってやつさ」

 我知らず、洪作は強い口調で応じていた。

 しゅんとした表情で、黙り込む美奈。

 わずかな沈黙の後、洪作をじっと見つめながら思いつめた口調で切り出した。

「わたし、洪作くんのことが入学した頃から、ずっと好きなの」

「・・・」

「洪作くんは、わたしのこと、どう思ってる?」

 洪作は以前からの気持ちを率直に口にした。

「推理小説好きの同士として、すごく親近感をもってる。

 でも・・・、好きとか、そういうのはないかな」

 今度は、さきほどよりは長い沈黙が刻まれた。

 その間、真正面を向いた美奈はプライドを傷つけられたような不満げな表情を隠そうともしなかった。

 やがて、洪作を振り向いたときには、ぎこちないながらも笑顔をみせていた。

 少しほっとした洪作に、美奈は不意打ちのように言った。

「洪作くん、綾葉先輩の秘密って知ってる?」

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